005:いざ、カプリバ王国へ
検問所の前で馬車を停車させると、兵士たちが運転手のところに駆け寄ってマニュアル通りの質問をする。
「乗っているのは誰だ? どこに向かうつもりだ?」
「後ろに乗っていらっしゃるのはカプリバ王国の侯爵家の長女である方です。バカンスの為に帝国にいらしたのですが、緊急事態ですので帰国して貰おうと思いまして港に向かいます」
運転手も設定を決めていたのだろう。
悟られないように冷静に受け答えをする。
この時点では見張りの兵士は、嘘だとは思っていないので話を前に進める。
「カプリバ王国とは島国のか? それじゃあ一応、確認しても良いか?」
「はい、どうぞ」
そう言うと兵士たちは馬車の後ろに回って、僕の顔を確認する為に扉を開ける。
ゴクリッと唾を飲み込むくらい緊張している。
しかし見破られるわけにはいかない。
全身全霊で演じてやる。
「あら? どうかしたのかしら?」
「カプリバ王国の侯爵家のご令嬢で合ってますか?」
「えぇマントーニ家の長女ですわ。もしかして通れないって事は無いでしょうね?」
「それは……はい、問題なさそうなので大丈夫です。お時間をとらせてしまって申し訳ありません」
そのまま兵士たちは頭を下げてから道を空けて、港へと続く道を通してくれた。
見えなくなるまでは令嬢を演じていた。
しかし見えなくなると全身の力が抜ける。
あぁ! 生きた心地がしなかったぁ……。
それにしたって身分証とかを調べないあたり、この世界の監査ってのは緩いのだろうか?
まぁとにかく最難関を簡単に突破できて良かった。
「あとは港町までですので、お休みになって下さい」
「あぁ迷惑をかけて悪いな………」
本当に何が何だか分からない。
とにかく今は眠ろう………。
僕は自然と瞼が垂れて来た。
そして数分としないうちに「すー、すー」と寝息を立てて眠りにつく程、気付かぬうち疲れていた。
ガタンッガタンッと揺れてはいるが、そんな事に気がつかないくらい寝入ってしまった。
すると夜になる頃、港街に到着した。
僕は運転手に起こして貰って目を覚ました。
「アラン様、到着いたしました」
「ん? もう着いたのか……ここからどうするんだ?」
「はい、もう船は手配してますので安心して下さい。そこまで案内しましたら、私の役目は終わりです」
「終わり? それからお前はどうするんだ?」
「戦地に戻ってコルード様と共に戦います。どうかご無事をお祈りしています」
運転手の案内で僕が乗る船に向かった。
その船はカプリバ王国に帰る人間たちの乗る船だ。
ペコッと運転手は頭を下げると、馬車に戻ってコルードがいるであろう戦地に戻って行った。
僕だけ逃げるのは心が痛むが、どこか生き残れる事に安堵している自分がいる。
何を安堵してるんだ。
コルードとローズたちの仇を取るのは、僕の仕事だろうが………。
絶対にカプリバ王国に行って帝国の復讐するだけの力を蓄えてやる!
船は僕を乗せて定刻通りに出発した。
カプリバ王国は前世で言うところの台湾と同じくらいの島国であり、それなりに軍隊も整備されている。
その軍隊に入って復讐するだけの力を持ってやると、遠くなっていく母国に違うのである。
僕が思っていたよりもカプリバ王国は遠かった。
丸2日かかって3日目の朝に到着した。
前世でも船には乗った事は無かったので、想定していたよりも遥かに疲れた。
船を降りると蹴伸びをして新たな土地に降り立つ。
はぁ国が変わると新しい匂いがするな。
それは前世だろうと異世界だろうと変わらないなぁ。
それでここからはどうするんだ?
降り立ったは良いもののどうしたら良いのか。
周りのキョロキョロしながら困っていると、そこに身なりが綺麗な2人の男がやって来た。
「アインザック家のアラン様でしょうか?」
「あっはい……そちらは?」
「はい、カプリバ王国で宰相をしている《ジョゼ=ポワリエ》と申します」
どうやら彼らはカプリバ王国の宰相らしい。
確かに頭が良さそうだ。
コルードよりも遥かに頭が良さそうな雰囲気がある。
まぁそこを比べるのも酷って奴だろうけど。
「コルード様とは雰囲気が違いますな。コルード様は騎士って感じですが、アラン様は7歳ながら軍師と言った知的な感じがありますぞ」
「いえいえ父上と比べるには、まだまだ僕はヒヨッコもヒヨッコで………」
「いやぁその歳で謙遜もできるとは、さすがはアインザック家の次期当主ですな!」
ジョゼ宰相は僕の事を褒めてくれる。
前世では褒めて貰えなかったもので、ここまで褒められると照れてしまう。
照れているがハッと我に戻る。
「それよりも僕は、これからどうなるんですか? この国で亡命人として奴隷落ちするんですか?」
「え? 奴隷落ちですか? まさか国の英雄であるアインザック家の次期当主であるアラン様を、奴隷落ちなんて私の首にかけてさせませんよ」
とりあえずは安心した。
奴隷落ちしないのならば、少しは人間らしい生活は保障されたも同然だろうな。
それにしても本当に英雄扱いなんだなぁ。
本では読んでいたけど、目で読むのと肌で体験するのは天と地ほどの差があるわな。
「とりあえず国王に謁見していただけますか? 船の旅でお疲れかと思いますが、こちらの馬車へどうぞ」
カプリバ王国の国王への挨拶を頼まれた。
この国でお世話になるのだから国王へ、土下座くらいはしないと誠意が伝えられないだろう。
そんな事を思いながら僕は馬車に乗り込む。
そしてカプリバ王国の王都へと出発する。
また馬車の旅は揺れて大変なんじゃ無いかと思ったのだが、カプリバ王国は道が整備されている。
その為、揺れる事は殆どなくて快適だ。
そんな小さな事に新鮮さを感じていると、半日かからず王都に到着する。
ここが王都なのか。
露天店がたくさんあって祭りを思い出すなぁ。
それに皆んなニコニコしながら子供も走り回って楽しそうで良いところだって分かる。
何だろうなぁ………。
帝都には行った事が無いけど、きっと帝都よりカプリバ王国の方が幸福度は高そうだ。
僕の初めての初見は良い王都だと言う感じだ。
皆んな幸せそうな感じがして、ここなら幸福な暮らしができそうな感じがする。
そのまま馬車は王都の中心にある王城に向かう。
到着すると兵士たちが宰相の顔を確認してから城門を開いて、馬車を中に通してくれるのである。
そして馬車を降りて城の中に入る。
「あ あの! 国王様に謁見するのに、この格好のままで良いんですか?」
「そんなところまで気を使っていただきありがとうございます。しかしそこまで、ご心配なさらなくても大丈夫ですよ。貴殿は我々にとって最高の客人ですので」
まぁ本人たちが言うのなら大丈夫か。
それにしたって母国の皇帝にすら会っていないのに、他国の国王に会うのは緊張するなぁ………。
ここはピシッとアインザック家の次期当主として、凛々しい姿を見せてやる!
僕は背筋をピシッと伸ばして気合を入れる。
そして宰相の後ろを着いていって扉の前に到着する。
「心の準備は大丈夫ですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「それじゃあ開けさせていただきます」
宰相は僕に心の準備は良いかと聞いて、大丈夫だと答えるの扉をギギギッと開くのである。
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