004:没落

 屋敷にやって来た兵士は、話を通して直ぐにローズのところに向かっていった。

 僕も様子を見たいので、コッソリと扉の隙間から話を盗みぎくのである。



「帝都での騒動に関しまして、最初は優位に立っていたのですが………日に日に劣勢に立たされて、最終的には敗走を余儀なくなりました」



 ん? 帝都での騒動?

 全くもって知らない事ばっかりだけど、あの兵士の顔やローズの表情からして騒動を起こしたのはコルードの法なんだろうな。

 それにしたって負けたって聞くと心穏やかじゃない。

 これからどうなるのっていう事と、コルードはどうなったのかという疑問があるな。


 ローズは兵士から負けた事を聞かされて、俯き頭を手で抱えるのである。

 そんなローズは咳払いをしてから口を開く。

 そして兵士にある事を聞く。



「コルードはどうなりましたか?」


「コルード様は南西の方に現在も敗走しております」



 やっぱり負けたのはコルードだったか。

 それに何があったから分からないけど、今は生きているみたいだし、今のところは安心か。


 全く状況を理解できない僕ではあるが、コルードが生きていると聞いて少し安心する。

 僕よりも安心しているのはローズだ。

 泣きそうになるのを押し殺して深呼吸をする。

 そしてスッと表情を戻して続きの質問を兵士に投げかけるのである。



「それで帝都の動きはどうなっているの? このまま帝都が何もしないわけは無いと思うけど?」


「はい。それなんですが帝都は反乱を起こした右大臣とアインザック家の抹殺をすると………ここにも軍が近々向かってくるはずです」


「そうですか………それなら早く手を打たなければいけませんね」



 おいおい反乱を起こしたって何だよ。

 それにアインザック家の抹殺って、せっかく異世界転生したのに死亡確定かよ………。

 どうなってんだよ。

 イージーモードになったんじゃ無いのかよ。


 反乱を起こしたと聞いた僕は、何をやってんだよという気持ちと共に、その後の一族抹殺が頭を過ぎる。

 廊下で息子が、そんな風になっているとは知らないローズは一族抹殺の前に手を打つという。



「アランを今直ぐに、この屋敷から逃がしましょう」


「例流らたらメマのところに逃すという事ですね?」

 

「コルードが用意していたルートを使って逃がします」



 僕を逃すルートって何だ?

 もしもの時の為に脱出ルートを確保してたのか。

 さすがは一族の長と嫁だなぁ………。

 だけどコルードは大丈夫なのだろうか。


 僕はどこに逃げるのかと考えていたら、兵士が部屋を出て来そうなので部屋に走って戻る。

 そして何も無かったかのように本を広げる。

 すると扉をノックして数人の兵士が入って来た。



「アラン様、緊急事態です。この屋敷から脱出していただきます」


「脱出? それはどういう事だ?」


「それは馬車の中でお話ししますので、どうぞお早く移動して下さい」



 兵士たちは急いで僕を移動させたいらしく、質問には馬車の中で答えると言って馬車まで案内する。

 僕は必要な物だけをまとめると部屋の外に出た。

 そして歩きながら質問の続きを投げかける。



「父上と母上も一緒に逃げるんだろうな?」


「いえ、ローズ様は屋敷に残って指揮を取ると仰っています。コルード様も同様に兵士たちの指揮を取る為に残られます」


「とりあえずアラン様だけを逃すようにとの事です!」



 嘘だろ。

 ローズは逃げないのか?

 こんなところに居たって帝国軍にやられて死ぬだろ。

 そんな事になるのなら僕と逃げた方が賢明な判断なはずだ………それを選ばないなんて。

 もしかして! 僕を逃す為に時間を稼ぐつもりか?

 それなら屋敷から出ない理由に納得できる。


 僕は静かに兵士の後ろに着いていたが、僕だけが逃げると聞いてピタッと止まった。

 兵士たちの足も止まり、どうして止まったのかと兵士の1人が疑問を投げかけて来た。

 それに対して僕は胸を張って答える。



「母上が逃げないのなら次期当主である僕が、ここから逃げるわけにはいかない!」


「い いや! そうおっしゃいましても………」



 僕が逃げないと言うと兵士たちは困惑する。

 どうにか説得しようと頑張ってはいるが、これに関しては僕のプライドもあるので逃げるわけにはいかない。

 こうなったら梃子でも動かない。

 するとそこにローズがやってくる。



「どうしたの? まだ脱出していないの?」


「母上……僕は残ります! 次期当主だけが逃げるなんてアインザック家の恥晒しになってしまいます!」


「あら次期当主だからこそ逃げるのよ。このままアインザック家の血を絶やす方が重大だわ」


「し しかし母上っ!」


「良いから逃げなさい! これは親としての命令よ。貴方だけは生き延びなさい………そしてまたアインザック家を世界最高の家にしてね」



 ローズは相当の覚悟をしていた。

 こんな状況で子供らしく駄々を捏ねようとも思ったのだが、それじゃあローズの覚悟を貶す事になる。

 それだけは避けなければいけない。

 そう考えた僕は「はい……」と頷くしか無かった。

 ローズに見守られながら僕は馬車に乗り込んだ。


 7年しか一緒にはいないけど、ローズはこの世界での母親なんだもんな。

 そして下手したら、もう会えないかも知れない。

 このアインザック家の無念を張らせるのは、この世界で僕だけなんだ!

 絶対に逃げるだけじゃない。

 成長して、このハードモードを攻略してやる。


 そんな覚悟をした僕は自然と馬車の窓から屋敷の方をちらっと見るのである。

 すると口を押さえて声を出すのを我慢しているローズの姿があった。

 こんなのを見てしまった僕も目に涙が溢れてくる。

 馬車の操縦手に声が聞こえないように声を殺す。



「アラン様、そちらに置いてある服に着替えていただけますでしょうか?」


「置いてある服? これの事か………ん? これって女の子物の服じゃないのか?」


「はい、この先に検問所がありますので身元がバレないように返送していただきます」



 変装って確かに中性的な顔立ちだけど、女装したくらいで誤魔化せられるもんなのか?

 まぁ少しだけでも生存率を上げられるんなら、女装も仕方ないか………。


 僕は仕方なく置いてある服に着替えた。

 検問所に着く前に僕は運転手の男に声をかけて、これからどこに行くのかと言う質問をした。

 馬車に乗ったものの行き先は知らなかったからだ。



「アラン様には、これからヨーパロット大陸とセントル大陸の間にある島国〈カプリバ王国〉です」


「カプリバ王国? まさか国外だったとは………」



 確かカプリバ王国って50年前に独立戦争で激しい戦争してたところだよな?

 そしてその独立戦争の仲裁したのが、僕の曾祖父だったって聞いたな。

 だからカプリバ王国はアインザック家を国賓扱いしてくれているんだっけか。


 カプリバ王国での生活を少し想像していると、槍を持った兵士たちが待ち構えている検問所が見えて来た。

 緊張して固唾を飲むのである。

 上手くやれるのだろうかと言う不安を抱きながら、上手くやらないと死ぬんだろうなと考えてしまう。

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