1-5 Armillary sphere(天球儀)/The cloak of darkness(夜の帳が降りる)
──1797年4月第1週。
セリスとヴィーチェに国王が同居をするように告げた、その5分後──。
国王【アルヴィス・オーギュスト】は取っ手に大輪の薔薇の刻印が彫られた
部屋の中は薄暗く、ひんやりとした空気が流れている。中央には淡く輝く巨大な円形の厚みを持った透明の
ダイヤモンドクロックは単に12騎士の生死を告げるだけではない。位を表すインデックスはその騎士の
時計盤だけでなく、
さらに最も恐ろしいとされているのが、短針も長針も反時計回りに一周し、12の騎士のインデックスが全て輝く時。それは12騎士全てが揃う時。その時にこの世界は滅ぶとされている。
「今日も世界は
アルヴィスは時計盤を横目で確認すると、奥にある扉に先程と同様の薔薇の刻印に手をかざし、その奥へと進んで行った。
扉の奥は
「陛下、今日はお早いお越しで。」
金色の剣の上に金色の
「ダイヤモンドクロックに問題は。」
「異常ございません。」
ダイヤモンドクロックには12騎士に関する事だけではなく、もう一つの顔がある。それは
この不思議な72個の宝石状の結晶の集まりが人類が持つ最高の頭脳──ディオニシウス・システムと呼ばれる
「損傷もないようで
アルヴィスはシステムの放つ蒼い光に目を細めた。
中心に浮かぶ巨大な二十面体の宝石のようなものはディオニシウス結晶とよばれる。そこはシステムの
───同日。アルヴィスがダイヤモンドクロックの間を出て、1時間58分後。セリスとヴィーチェ。
地面の上を
「
ヴィーチェの甲高い声に眉を
「そうだ。絵本に出てくる妖精たちだ。エルフにドワーフ、シルフィ、サラマンダー、数え切れないほどの妖精たちがあの森で暮らしている。」
ふぅんと返事をしたものの、期待していた回答が得られなかったためか、再度質問を繰り返す。
「おとぎ話は現実だったとして、なぜこの地にだけ生きているの。」
その質問はセリスの心を少し痛めた。
「
ぽつりと
下級魔物と呼ばれる虫の様な姿をした日常的に目にするものは、街にいるエクソシストか警察が倒す。それは日常的によくある光景で、倒した後は魔物袋に入れてゴミの日に出しておけば回収してくれる。
ここから先が段違いに強くなる。
中級魔物と呼んでいるが、並の
この国のエネルギーを使う機械の動力源はほぼこの魔法石結晶、
結晶化のもう1つの理由は、そのままにしておくと倒した魔物が再生して他の魔物と融合し、
次の上級魔物になると
さてここからが12騎士の仕事となるのだが、12騎士は存在しない事になっているため、大っぴらにできない。そのため全て軍の手柄になっている。
12騎士が戦っているのは超級、
魔族と魔物には大きな違いがある。
知性があるか無いか。だから、ある程度の駆け引きをしながら、一撃で倒す。その後一瞬の
「12騎士が出動するのは、多くて年に2〜3回くらいだ。高位の魔族を倒すには、一撃必殺しかない。となれば必然と火力の高い魔法を使うことになる。さて、ここからが問題だ。自分の身の危険を
車はオートクルーズモードに設定してあるが、木や岩にぶつかる事無く、静かに進んでいく。
「後者ね。誰だって自分の身が大事でしょう。」
「私も以前そう思っていた。だがある日、妖精たちの森を魔族が襲った。着いた時には妖精たちは手足はもがれ、腹わたは食いちぎられ、建物は火に焼かれ、女子ども関係なく
セリスの声で、2人は車の外へ出た。そこには何も無い海に面した切り立った
「何も無いじゃない。」
セリスの態度をヴィーチェはいぶかしげに思っていた。
「ここはほぼ1ヶ月に1回、夕方に上級から超級の魔族が出現する場所だ。私の考えでは後方にある王都を狙って来ているのだろう。魔族や魔物がどこから来ているのか、なんのために出現しているか一切不明だが、一度出現した場所からは出現しやすい。そのなかでもここは出現率が高い場所の1つだ。空間の
そういうとセリスは距離の離れた所まで飛んでいくと、それぞれがもっている固有の発生音、ピアノの高い音が聞こえたと同時にセリスの瞳が、魔族を捉え、冷徹な光を放っていた。次の瞬間、彼女の体から溢れ出した魔力によって空間が歪み、魔族は一瞬にして消し飛んだ。その光景を見たヴィーチェは、セリスの力の深淵を改めて思い知らされ、恐怖と畏敬の念を抱いた。それはまるで、神が怒りを顕現させたかのようだった。セリスはこちらに戻りながら魔晶石を膨張させたり圧縮させて、徐々に小さくさせていた。ヴィーチェの所に来るころには、ビー玉くらいの大きさになっていた。かなりの速度と強すぎる火力。速い結晶化。これが冷静なセリスの実力の
「この仕事を代わりにやってもらう。ヴィーチェもなかなか金がかかる存在ではないか。いくら国の
ヴィーチェに拒否する事ができないと知ったうえでの挑発的な物言いに、
「どうする。ヴィーチェ、この玉っころ1つで、半年分以上の人件費にお釣りがでる。それが毎月確実に手に入る。それに魔力エネルギー会社に毎回
この時、セリスがどんな顔をしていたのか逆光で見えなかったが、それはファウストに
「やる。あなたがどこでその情報を知ったのか、関係ない。ワタシには断る理由はないわ。研究所にはワタシの理想を現実化させるために日夜働いている研究員たちがいる。
ヴィーチェはセリスが差し出した手を取り、固く握手を交わした。
セリスが半ば強引に条件を飲ませた裏には、ヴィーチェの境遇に同情したからではなかった。ただ国王から研究所の惨状を
セリスは
「さて、家に帰ろう。|The cloak of darkness《夜の帳が降りる》.」
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