#11 補習。そして、エピローグ

 そして、補習の日――。


「さあ、いよいよ補習だにゃ。クエストを受けてもらうとかって言われたけど、どんにゃクエストかにゃ?」


「さあ。でも、私たちの補習になるようなものだし、そんなに難しいものじゃないんじゃないの」


「……パニックを起こして魔法を乱発しないようにしないと……」


 話しているうちに、ターニャの執務室に到着する。


「失礼しますにゃ。補習の件で来ましたにゃ」


「待ってたよー。それじゃあクエスト内容を発表するねー。みんな前回の実習に失敗しているけど、どうもポテンシャルは高そうだから、今回はロンリーウルフの討伐クエストを受けて貰うよー」


 ロンリーウルフ。


 熊の二、三倍の大きさを持つ狼の魔物だ。


 普通の狼と違い、群れで行動することはなく、基本的には名前の通り一匹で活動する。


 非常に凶暴で、獲物を発見するやいなや、鋭い牙や爪で襲いかかってくるという。


 魔物と戦い慣れている者ならば倒せない魔物ではないものの、民間人にはかなり危険視されている。


 普通は人里離れた森の奥に生息しているはずだが、ちょうど今朝、街道の近くに住み着いてしまった個体が発見されたらしい。


 すでに何人か襲われてしまっているが、今のところは幸いなことに死者は出ていない。


 しかし、それも時間の問題であるため、至急討伐が求められているのだそうだ。


 クエスト内容の説明を受けた後、早速私たちは学院を出発し――。


 私たちは森へ向かう途中の街道を、のんびりと歩いていた。


「……補習クエストで、そんな危なそうな魔物の討伐をさせるなんて……どうかしてる……」


 フーはそう落ちつかない様子で周囲を見回す。


 道はあまり整備されておらず、石がゴロゴロと転がっているためやや歩きづらい。


 少し疲れた私は一休みがてら足を止め、地図を広げる。


 前回の探索実習では、ネルに地図を任せた結果、大変なことになったので、今回は私が地図を見る係となっている。


「森への道は……こっちだな。みんな、もうすぐロンリーウルフが出た場所だから、気を引き締めて」


 私の指示に、ネルとフーが無言でコクリと頷いた。


 街道は二つの道に分かれており、一方が隣町の方へ、そしてもう一方がロンリーウルフの住み着いたという森に繋がっている。


 と、不意にネルが声をあげた。


「にゃ? 何かがすごい勢いでこっちに向かってくるにゃ!」


 ネルがそうロッドで指し示した先に、それはいた。


 ロンリーウルフだ。


 全身が灰色の体毛で覆われ、サーベルのような大きな二本の牙を生やした巨大な狼がこちらに向かって突っ込んでくる。


 確かにこんなの、民間人にとってはかなりの脅威だろう。


 というか、ある程度魔物との戦いに慣れている私でもちょっとビビる。


「あばばばばば」


 私の隣で、フーが引きつった顔で悲鳴を上げている。


「ここは私に任せるにゃ!」


 そんなフーと、戦闘態勢が整っていない私を後ろに庇う形で、杖を振りかざしたネルが前に出た。


 私たちの前方に光の壁が展開され、突っ込んできたロンリーウルフはそれに激突した。


 ロンリーウルフが大きく弾き飛ばされる。


「やるじゃん」


 ネルを褒めつつ短剣を構えると、フーも杖を構えて戦闘の準備を整えた。


 弾き飛ばされたロンリーウルフは、後ろ足で地面を擦った後、咆哮あげながら再びこちらに向かって来た。


「みんにゃ、来るにゃ!」


 ネルの言葉を合図に、私はロンリーウルフに向かえ打つべく駆け出す。


 飛びかかってくるロンリーウルフを交わし、すれ違い様に切りつけた。


 ぎゃうっと、ロンリーウルフが呻きを漏らしたが、入りが甘かったようでそこまでのダメージを与えられなかったようだ。


 鼻息を荒くしながら、こちらに向き直る。


「こいつ、デカいくせに素早いな。しっかり攻撃を当てられれば、すぐに倒せると思うんだけど……」


「……それなら、ぼくの魔法で」


 言いながら、フーが杖に力を込めて火球を放つ。


 炎の球が命中し、ロンリーウルフは鋭い悲鳴をあげて跳ねた。


「今がチャンス……ネージュさん……」


「任せて」


 フーの合図に合わせて、私は二本の短剣に魔力を纏わせる。


 そして、怯んで動きを止めたロンリーウルフの懐に一足飛びで入り込み、連撃を浴びせた。


 直後、ロンリーウルフの身体は、断末魔と共に身体中から噴水のように血を吹き上がらせて絶命した。


「……これで補習は無事に終わりだ」


 ――こうして、あっさりと補習をクリアした私たちは、すぐにターニャに報告した。


 無事に合格を貰い、執務室から出ようとした時、私だけ部屋に残された。


「何……何ですか? 話って」


「相変わらず敬語は使えないよねー、オマエ」


 頷きながら、ターニャは懐から取り出したキャンディを口に咥える。


「実はフラムからオマエの除籍案の取り下げがあったんだー。今のオマエなら仲間と行動できそうだからってことだけど……あのフラムがねー……昨日一体何があったのー?」


「説明するのが、面倒……面倒くさいです。まあ、いろいろありました」


「まあ、オマエから聞かなくても、だいたい把握してるんだけどさー」


 ターニャは口内のキャンディを噛み砕いた。


「それで、どうするー?」


「どうするって……何が?」


「もう完全に敬語が外れてるねー。やっぱり、そっちの方がオマエらしいけどー」


 二本目のキャンディを口に咥えて、ターニャは言う。


「除籍案は取り下げられた。それにオマエは他人とコミュニケーションできる兆しを見せた。オマエが望むなら、再び兵団に戻してあげてもいいけどー」


 その提案を聞いて、私は少しだけ考えて――。


「悪くない話だけど、遠慮するよ。私はまだネルやフーとパーティーを組んでいたいから」


 ターニャの目を真っ直ぐ見て言い切った。


 必要以上に人と関わって、下手に親しくなりたくないなんて思っていたけれど、今は違う。


 失うのが辛いなら、失わないように私が頑張ればいいだけだ。


「ふーん。オマエ、変わったねー。わかった。それなら、その意思を尊重しよう。それと……」


 ターニャが新しいキャンディを差し出してきた。


「これはオマエへのご褒美だ。まあ、これからも頑張れよー」


「言われなくても……あ、フラムによろしく言っといて」


 私は受け取ったキャンディを口に放り込むと、ネルやフーが待つ執務室の外に飛び出したのだった。

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学院兵団を追い出されて 風使いオリリン@風折リンゼ @kazetukai142

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