#9 vsスペクター③
フーの身体を乗っ取られ、私たちはスペクターに手を出せなくなってしまった。
そんな私たちに向けて、スペクターは満足そうに邪悪な笑みを浮かべた。
「形勢逆転だな。まずは拘束されている我が端末達を解放してもらおうか。断れば、我は自ら命を絶つ」
と、スペクターが自分の喉元に持っている杖を突きつける。
「こすい真似を……」
しかし、どうすることもできずにフラムは言われるがまま、鎖の魔法を解く。
「お前達は我をコケにしたからな。じわじわとなぶり殺しにしてくれる」
そうスペクターが両手を広げると、それを合図にしたかのように、スペクターに操られている子が一斉に私たちに襲いかかってきた。
「……フラムなら一人でもなんとかできるよね? 私はネルをフォローするから、助けてあげられないよ?」
「ふん。別にジブンの助けなんかいらへんわ。ちゃっちゃと、ネルちゃんを助けてやれや」
私の言葉に、フラムが剣を振るい、衝撃波を発生させ、洗脳状態の子達を吹き飛ばしながら答える。
「大丈夫そうだね。私はネルの援護に入るよ」
ネルはロッドを振るって、剣を持った二人の少女に応戦していた。
壁際に追い込まれており、かなり劣勢のようだ。
私は少女たちの背後に回り込むと、彼女達がネルに飛びかかった瞬間を狙って、棒を横に薙いだ。
少女たちの身体が横方向に吹っ飛んでいく。
「助かったにゃ。ネージュちゃん……」
「大したことはしてない。それより、フラムを取り囲んでる子達を倒しに行こう」
こうして私たちは襲いかかってくる子を倒していった。
しかし、いくら倒してもスペクターが手を挙げるだけで即座に復活してしまう。
「くくく。我は心が広いからな。特別に抵抗することを許してやるぞ。浄化でもできない限り、そいつらは私の意思でいくらでも動かせるのだから。せいぜい、足掻いて見せるがいい」
そうなのだ。この子達はいくら倒したところで……ん?
状況が圧倒的に自分の有利になり、調子に乗って口を滑らせたんだろう。
こいつ、今、自分でこの状況の切り抜け方を教えてくれたぞ。
フラムとネルは操られている子達との戦いに意識が向いているせいか、その事に気づいていないようだけど。
浄化なら、使える子がここにいるじゃないか。
私はすぐ側でロッドを振り回し、操られている子に応戦しているネルに声をかける。
「ネル! あんたの力があればこの状況は切り抜けられるってさ」
「にゃ? 何の事にゃ? 悪いけど、私にはそんなすごい力なんて持ってないにゃ」
「浄化魔法だ。浄化すれば端末を完全に無力化できるらしい。私が時間を稼ぐから、特大のをお願い」
その言葉を聞き、ネルは力強く頷く。
「任せるにゃ!」
「しまった! 全端末はあのケモミミの小娘を狙え!」
スペクターが焦ったようにそう指示を出し、操っている子達をネルへと差し向ける。
準備が完了するまでネルを守り切らなくては。
そう決意し、私は応戦の構えを取る。
「また、ジブンはそないして一人でしようとするやさけ……ウチもいんねんから」
フラムもこちらに駆けつけ、ネルを庇うように立ちはだかった。
「ネルちゃんに近づきたかったら、まずはウチらを倒してみい」
「ええい! 今すぐ、詠唱をやめろ。さもなくばこの娘を……」
「もう終わったにゃ! 行くにゃ! これが私の全力にゃ!」
ネルが叫んだ直後、部屋中が神々しい光に包まれた。
やがて光が消えたその後には、操られていた子達が地面にぐったりと倒れ込んでいた。
「おのれ……おのれえええええ!」
フーの身体から弾き出されたスペクターが、ヨロヨロしながら立ち上がった。
その隙を、フラムは見逃さなかった。
即座に、光の鎖の魔法を放ち、スペクターを縛り上げる。
「これで今度こそ終いや。さて、ネージュ。今回はジブンにトドメを譲ってやる」
フラムの言葉に、私はこくりと頷く。武器を自分の短剣に持ち替え――。
「この我が……こんな小娘たちに……」
そう喚くスペクターの首を、二本の短剣を交差させるようにして、斬り飛ばした。
「うぼぁぁぁぁぁ!」
切断と同時にスペクターの断末魔が、部屋中に響き渡る。
瞬間、部屋がぐにゃぐにゃと歪みだし、気がつけば、私たちは屋敷の入り口の前にあった姿見の前に放り出されていた。
フーも、スペクターの端末にされていた子達も同じようにして、気を失った状態で倒れている。
スペクターが死んだ為、鏡の向こうの空間が消えてこうなったのだろう。
こうして、フー探しに端を発したスペクターとの激闘は幕を閉じたのだった。
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