#8 vsスペクター②

 スペクターに操られた子は、いくら倒しても起き上がってくる。


 そのことに動揺してしまい、フーの魔法攻撃に対する反応が一瞬遅れてしまった。


「うぐっ!」


 再び爆発魔法をまともに喰らってしまう。吹っ飛んだ私の身体は、今度は床に叩きつけられた。


 全身に痛みが駆け巡り、もはや動くことは出来なかった。


「傷が痛むだろう? 私の端末になればその苦痛から解放されるぞ?」


 スペクターが勝ち誇ったように尋ねてくる。


 けれど、当然、私にだって意地がある。


「断る。私は殺されたって、あんたの端末なんかにならない」


 私の返しに、スペクターは憤慨した。


「そうか。ならば死ぬがいい。特別にお前の知り合いの手であの世に送ってやる」


 フーの杖の先に光が収束していく。


 最後の衝撃に備えて、目を瞑りかけた、その時――。


 フーの身体がどこからともなく現れた光の鎖によって拘束された。


「何⁉︎」


 スペクターが驚いた声をあげる。その間にスペクターに操られている子達も次々に現れる鎖で縛られていく。そして、スペクターにもそれが襲いかかる。


 スペクターは掌から黒い閃光を放ち、迫る鎖を破壊した。


「フーちゃんを探しにここまで来たんやけど……これはいったいどういう状況なん?」


 その声の方に顔を向けると、そこには武器を構えたネルとフラムがいた。


「ネージュちゃん!」


 ネルが駆け寄ってくる。


「大丈夫にゃ⁉ どうしてこんにゃことに……」


「いや、まあ色々あってね」


「もう……無茶しすぎにゃ」


 ネルはどこか怒っているような、けれど、ほっとしたような声を漏らした。


 一方のスペクターは首を傾げ、苛立ちに満ちた声をあげる。


「今日はずいぶんと招かれざる客がくるものだな……」


 フラムが得意げに言葉を返す。


「他人に入ってきてほしくないなら、結界でも張っておけば良かったんちゃう? もっとも、ウチの手にかかれば無駄になっとったと思うけど」


 さて、と声を低くしてフラムは続ける。


「状況からなんとなく理解出来たで。ジブンがフーちゃんの行方不明事件の原因やな?」


 言い終わると同時に、フラムは持っていた剣を振るった。


 途端に、剣先から衝撃波が放たれ、スペクターに向かっていく。


「小癪な」


 スペクターは、飛び退いて自分に迫る衝撃波を避けつつ、掌から黒い光弾をフラムに向けて放った。


 フラムはその場から、一歩も動かないまま、持っていた剣の先で地面を突く。


 フラムの周囲をオーラが包み込んだ。防御魔法だ。


 スペクターの放った光弾は魔法の障壁にぶつかり掻き消える。


「こいつはウチに任して、ネルちゃんはネージュを」


「任せるにゃ」


 フラムの指示を受けたネルが私に触れて回復魔法を唱える。


 優しい光が私の身体を包み、傷をみるみるうちに癒した。


「……ありがとう。助かった。それより、ふたりはなんでここに?」


 そう尋ねると、ネルがここに来た経緯を説明してくれた。


 その話を要約するとこうだ。


 ネージュやフラムは捜索を続ける中で、フーと同じように行方不明になっている子がいるという情報を入手した。


 その行方不明者に共通点がないか二人で調べた結果、全員がこの屋敷の噂に興味を持っていたことがわかった。


 いなくなったタイミングも夜でフーと同じだった為、可能性のひとつとして当たってみようということでここに来たのだという。


 そんな話をしているうちに、フラムとスペクターの戦いはほぼ決着がついていた。


「バカな……この我が、こんな小娘に……」


 スペクターは光の鎖で雁字搦めにされていた。


 対するフラムは息も切らさず、余裕の表情で剣の刃先をスペクターに向けている。


「ジブン、我なんて強そうな言葉をつことるくせに、大した事おまへんがな」


 フラムのその言葉に、スペクターはフードの影で見えなかった目を赤く光らせた。


「……舐めるな。まだ終わったわけではないぞ」


 スペクターがゆらゆらと揺らいだかと思ったその瞬間――。


 スペクターの身体は黒い霧のようなものに変化し、即座に拘束されているフーの身体に纏わりつく。


 フーを縛っていた鎖が弾け飛び、虚だったフーの目に赤い光が灯る。


「くくく。この娘の身体はいただいた。お前達はこの娘の知り合いなのだろう? これでお前達は我に手をだせまい」

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