#6 フーの捜索

 手分けをしてフーを探そうとネルやフラムと別れた私は、街の広場で聞き込みをしていた。


 周囲を見回しながら歩いていると、


「……ん?」


 人混みの中に、ある人物を見つけた。


 それはクラスメイトの一人だった。


 昨日の昼休みに、少し太ったから噂を試したいと言っていた子だ。そういえば、今日、彼女も学校に来ていなかった気がする。


「あの子、何でこんなところに……」


 私は人混みを掻き分けるように、彼女の元に走っていき、フーを見ていないか声をかけた。


 しかし、話しかけても、彼女は私の声がまるで耳に入っていないように歩き去っていった。


 どうも、様子が変だ。関わったら、絶対に厄介事に巻き込まれる気配がする。


 でも、見つけてしまった以上、このまま放っておくのも寝覚めが悪い。


 フーを探す為に学校を抜け出したけど……。


 私はクラスメイトの追跡を行うことにした。


 彼女は、どこかかくかくとした動きで広場を抜け、町外れへと歩みを進めていく。


 やがて、クラスメイトは、街の外れにあるうらぶれた古い屋敷に入っていった。


 彼女の後について中に入ると、入口の正面に巨大な姿見が置いてあった。


 ここって、もしかして、この子が噂していた屋敷?


 彼女は姿見の前まで来ると、なんとそのまま、鏡の中へと入っていった。


 私も鏡面に触れてみる。指先がずぶりと鏡の中に突き刺さった。


 次は恐る恐る鏡に顔を埋めてみる。そこには、こちら側の風景を綺麗に左右反転させた世界が広がっていた。先程の子の姿は既に無い。


 意を決し、私は鏡の中に飛び込んだ。


 入っていったクラスメイトを探して屋敷内を探索する。


 置かれている調度品は高級そうな上にどれもよく手入れされており、歩いていると少しだけ貴族になったような気分にもなる。


 とはいえ、そんな気分に浸っている暇は私には無い。


 気を取りなおして、クラスメイトを探すことに集中する。


 そうこうしているうちに、私はダンスホールのような場所にたどり着いた。


「はて? 招いた記憶が無いものが来ているな……」


 突然、老人のようなしわがれた声がホール中に響いた。


 瞬間、私はゾクリと身体が震えるのを感じる。


 腰に付けていた二本の短剣を引き抜き、声の方に振り向く。


 その先には、黒いフードを纏った何者かがいた。フードの下は辛うじて、口元だけが見えるものの、そこ以外は絵の具で塗りつぶされているかのように黒い。


 そのため、正体が何なのかは、はっきりと分からない。


 けれど、間違いなくヤバい相手であることは即座に理解できた。


「あんたは何者?」


 言いつつ、短剣を構えて僅かに腰を落とす。


 フードの何者かはやれやれというように首を振り、


「何者……それはむしろ我がお前に聞きたい所だが、先に聞かれた以上は先に答えるとしよう。質問を質問で返すのは良く無いからな」


 そう言って、口元をニヤけさせながら名乗った。


「我はスペクター。我は石畳と木組みの建物が立ち並ぶこの街の風景が気に入っていてな。ぜひ我が物に」


 スペクターが喋っている間に、私は力強く地面を蹴って、スペクターに急接近する。


「したいと思っているのだよ。邪魔しようと」


 スペクターは、短剣をハサミのように交差させて切り裂こうとする私の攻撃を、喋りながら軽々とかわす。


「言うのだな。その様子だと」


 そのまま、私へと掌を差し出した。その表面から黒い閃光が迸る。


 私は咄嗟に身体を捻り、閃光を超至近にギリギリでかわした。


「ほう。悪くない身のこなしだな」


 そんな私の立ち回りを、スペクターはしわがれた声で称賛してきた。


「そりゃ、どうも」


 私は再び腰を低くした体勢で短剣を構える。


 対するスペクターは顎に手を当てながら、何かを考えているような素振りを見せる。


「お前、我と取引しないか?」


「取引?」


「我は全ての準備が終わるまで余計な労力を割きたくないのだ。ここで見たことを忘れてこの場を立ち去ると言うならば、お前を無事に帰してやる」


「断ったら?」


 私が不敵な言葉を投げかけると、スペクターは、


「お前も我が端末に加えるまで」


 そう両手を大きく広げる。


 すると、私を取り巻くように、十数個の鏡がどこからともなく出現した。


 その中から、虚な目をした少年少女達が姿を現す。


 全員が、剣やら杖やら槍やらを持って武装している。


 そこには、さっきまで追いかけていたクラスメイト。そして――。


「フー⁉︎」


 行方不明になっていたフーの姿もあった。

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