#4 ダンジョン探索実習②
いろいろあったけれど、私たちはどうにか正規のルートまで戻り、魔石が置かれている最上階までたどり着いた。
通路の途中に、閉ざされた扉を見つけたネルがこちらに振り向いた。
「ネージュちゃん、この部屋に罠の反応はあるかにゃ? 落とし穴とか」
「んー、とりあえず、今私が探知できる範囲にはないよ」
そう返した私の言葉を聞き、
「じゃあ、中に入ってみにゃい? こういうのって本来のルートから少しずれたところにいいものがあったりするじゃにゃい。せっかくの探索だし、ちょっと覗いていくにゃ」
ネルが気軽にそう言ってくる。
「多分私たち以外のパーティーは全員この実習を終了しているだろうから、私たちに寄り道してる暇はあんまりないんと思うけど?」
正直、私はさっさとこの課題を終わらせたい。
だから、私はネルの提案を拒否した。フーもそれに頷く。
「あの……ぼくも……ネージュさんに賛成。……あんまりウロウロして、魔物に逢いたくない……怖いし……」
「うーん。二人がそういうにゃら、今回は先に進むかにゃ」
どこか名残惜しそうに、ネルが扉に手をついた時だった。
「にゃっ⁉」
扉がくるりと回転し、体重を預けていたネルがそのまま室内へ吸い込まれた。
「まったく、なにやってんだか……。しょうがない。私たちも行こうか」
ネルに続き、私とフーも部屋に足を踏み入れ――。
そして、後悔した。
そこには、数十匹の魔物の群れがいた。
一匹一匹は大したことがないとはいえ、この数を倒すのはかなり骨が折れるだろう。
ここは、いわゆるモンスターハウスというやつだった。
私たちは慌てて退室しようとするが、どういう訳だか扉が開かない。
フーはおろおろし、ネルが引きつった顔で呟く。
「もう私は何もしにゃい方がいい気がするにゃ。大人しくすみっこでうずくまってるにゃ……」
そんな二人を背後に庇う形で、私は魔物たちの前に出た。
この場合は二人を守るためだから、戦うのはありだよね?
「悪いけど、しょげるのは後にして! そこにいると危ないから下がって!」
「……いや、私も手伝うにゃ……といっても、私の浄化魔法じゃ、この場面だと魔物を怯ませるくらいしかできないけど……って、ネージュちゃん! 大変にゃ! フーちゃんがあまりの敵の多さにビビって立ったまま気を失ってるにゃ!」
「ああ、もう!」
もうやだこのパーティー。
私はヤケクソ気味に短剣を引き抜いて、襲い掛かって来た魔物達を迎え撃つ。
一撃で仕留められるものの、この数をほぼ一人で相手にするのは流石にしんどい。
数匹の魔物が私の斬撃をかい潜り、立ったまま気絶しているフーに飛びかかった。
「フーちゃん!」
ネルが咄嗟にフーを突き飛ばしたことで、魔物達の攻撃は空を切った。
突き飛ばされ、地面に激突した衝撃でフーが目を覚ます。
「痛たたた……あれ? ぼくは一体?」
状況についていけずに困惑しているフー。そんなフーに魔物達が再び襲いかかった。
「逃げろ! フー!」
「え? あばばばばば」
自分の現状を理解したフーは取り乱しながら、持っていた杖から炎の球を放った。
フーに襲い掛かった魔物達は炎に包まれ、跡形もなく燃え尽きた。
「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!」
我を失ったフーは、その後も半狂乱で杖から火球を放つ。
火球は、部屋の中にいた魔物達を次々に焼き尽くしていく。
これならどうにかなりそうだ。
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。
フーを中心に部屋の中の空気が突然揺れだした。
なんか、めちゃくちゃやばい気がする。
「フー! もう魔法攻撃は大丈夫! ここまで数が減ったら、残りは私の攻撃だけでも……」
そう声をかけてみるが、どうやら聞こえてないらしい。
フーの杖の先に眩しい光が灯った。
「無理イイイイイイ!」
フーがカッっと目を見開くと同時に、室内に一筋の閃光が走り抜ける。
直後、部屋中に空気を震わせる轟音が鳴り響き――。
結論から言うと、私たちは探索実習を失敗した。
フーの放った爆発魔法の威力は凄まじく、部屋の中にいた魔物どころか、最上階をまるごと吹き飛ばした。
私たちはそれに巻き込まれ、気がついたら全員保健室のベッドの上にいたのだった。
できればもう、ネルやフーとはパーティーを組みたくない。私一人だったら、この課題は問題なくこなせたはずなのだ。
「みんな、本当にごめんにゃ。私がいろいろやらかしたせいにゃあの部屋に入ったせいで……」
「……いや……ぼくがあの部屋を吹き飛ばしちゃったせいだから……」
隣のベッドでは、ネルとフーが今回の実習を振り返っていた。
口々に先程の実習の反省を述べる二人の話に耳だけ傾けていると、
「でも、今回はネージュちゃんがいてくれてよかったにゃ。ネージュちゃんがいにゃかったら、最上階に行くこともできにゃかったと思うにゃ」
「……ぼくも……そう思う……ありがとう……」
二人から、感謝の言葉をかけられた。
「そんな……。別に大したことはしてないから……」
急にお礼を言われたせいで、どう反応していいかわからず、二人から顔を背ける。
と、そこへターニャがやってきた。
「みんな、身体は大丈夫ー?」
「まあ、なんとか」
ターニャの質問に、私が代表して答える。
「そっか。それは安心したよ。だったら、補習の話をさせてもらおうかなー」
「補習?」
私がそう尋ねると、ターニャは頷き。
「そうだよー。いや、あの課題を達成できなかったのはみんなが初めてだったから、どんな補習をさせるか、すごい悩んだよね。……というか、地図どおりに塔に登って、言われたものを持ってくるだけの課題だというのに、失敗するなんて……ねえ?」
「だって、それは……」
あまりに二人がポンコツだったから。
思わずそう言いかけて、すんでのところで止めた。それを口にするのは、私なんかに感謝してくれた二人を傷つけると思ったからだ。
それはあんまり気持ちのいいモノではない。
結局、私は何も言い返せなかった。
他の二人も罰が悪そうに俯いている。
「まあ、とにかく近いうちにみんなには補習として、こちらが指定したクエストを受けてもらうから。しっかり準備しておくようにねー」
ターニャはそう告げた後、気だるそうに保健室から去っていった。
また、この二人と組むのか……。
内心、私は複雑な気持ちだった。
足手まといになりそうだから、もう一緒に組みたくないという想いはまだある。
けれど、自分を認めてくれた二人とならまた組んでもいいかもしれないという気持ちもあり――。
そんな相反するモノが心内でせめぎ合っていた。
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