#3 ダンジョン探索実習①
塔の内部は多少複雑な作りになっている。
だが、先程ターニャから地図を貰っているため、地図通りに進んでいれば迷うことはないだろう。
私たちは、地図を持っているネルの先導で頂上を目指していた。
「聞いてはいたけど、結構いっぱい魔物が出てくるにゃ。まあ、どれも簡単に倒せるけど」
塔の中には、魔物も出現する。
といっても、巨大化して凶暴になった蝙蝠やカエルだから、私の敵ではない。
見たところ、罠も少し仕掛けられているようだけれど、私が感知の魔法を使えるから、引っかかるようなこともないだろう。
なるべく手をだすなと言われていたけれど、二人の安全の為に、感知魔法の使用くらいはありだよね?
ともかく、この実習は難なく課題を達成できそうだ。
と、ネルが足を止めた。分かれ道だ。ネルは地図を広げる。
「えーっと……こっちかにゃ?」
ネルの指示に従い、私たちは塔を進んでいく。
しばらく歩くと、一本道の長い通路に突き当たった。
なんというか、いかにも罠が仕掛けてありますというような雰囲気を醸し出していた。
そのまま、無用心に進むのは危なそうだ。
「……二人とも、ちょい待ち。この道はなんか危険な気がする。魔法使って調べてみる」
先に進もうとしていた二人に声をかけ、罠感知の魔法を発動する。
目を閉じ、意識を集中させると、この周辺の罠の位置が頭の中に浮かんでくる。
んん?
それはものすごい数の罠だった。床の大半に何かしらの罠が作動するスイッチが仕掛けられていた。
流石に量、多過ぎない?
と、少し困惑しつつ、二人に罠の存在を伝える。
「ここの床、至る所に罠のスイッチがある。私が安全なルートを教えるから、その通りについてきて」
「了解だにゃ。いやー、キミが罠探知の魔法を使えて助かったにゃ。この課題は私たちには楽勝だにゃ……っとっと」
老朽化でめくれていた石畳に、ネルがつまづき――。
カチッ。
転ばないように前に出したネルの右足は、罠を起動するスイッチが仕込まれている床をしっかりと踏み抜いていた。
私たちの間に、なんともいえない沈黙が流れる。
「……えっと、その……ごめんにゃさ……」
ネルの謝罪が終わる前に、私たちは全員、突然床に空いた大穴に吸い込まれ――。
気がつけば、そこは完全な密室だった。
一面が壁に囲まれており、出口のようなものは見当たらない。
天井の方を見上げると、はるか上の方に私たちが落ちてきた穴が見える。
あそこまで登っていくのは、ちょっと無理そうだ。
他に脱出方法がないかと、周囲を確認する。
しかし、役に立ちそうなものは見つからない。
こちらの様子は魔法でチェックしているみたいだから、本当にどうにもならなければ、助けが来るのを待てばいい。
……それにしても、聞いていた話と違って難易度高すぎない? どんなパーティーでも攻略できるって聞いていたけど、あの量の罠、罠感知の魔法を使えるメンバーがいないパーティーじゃどうしようもない気がする。
けれど、あの道にあった罠は全て、ここ最近で誰かが引っ掛かった痕跡がなかった。
他のパーティーは一体どうやって通ったんだろう?
ひとりそんなことを考えていると、
「にゃあああああ!」
突然、ネルが叫び出した。
「え? 何? どうしたの? 急に」
申し訳なさそうな顔でわなわなと震えながら、ネルが地図をギュッと握る。
「……ここから出る方法を探すために地図を見てて気づいちゃったんだけどにゃ」
「うん」
「どうも、さっきの分かれ道、本来のルートと逆に進んじゃってたっぽいにゃ……」
ネルはすまなそうな顔をしながら項垂れる。
ああ、なるほど。通りで難易度高いわけだ。
「はぁ……。道は間違えるし、罠を踏んじゃうし……。みんにゃ、本当にごめんにゃ。私、いつもこうにゃんだ……。はぁ……」
ネルはその場にうずくまってしまった。
「……まあ、私たちも道を間違えてることに気づかなかったわけだし?」
「……そうだぞ……失敗は誰にでもあること……だからな……まあ、元気をだせ……。みんなで協力すればきっと……うっぷ」
私と一緒にネルに励ましの言葉をかけていたフーが、急に虹色のキラキラしたものを吐き出した。
勢いよく放出されたそれが、ネルの頭にひっかかる。
「……ごめん。やっぱり人と話すの、ぼくには難易度が高すぎた……みたいだ……」
そのまま、フーはばったりと倒れた。
「にゃははは……。ゲロまみれになちゃった。こんな私にはお似合いだにゃ……」
ネルは頭にかかったそれを拭おうともしない。
なんだこの要介護パーティーは……。
こんな調子で探索実習をクリアすることなんてできるんだろうか。
そんな一抹の不安を抱えながら、凹んでいるネルを慣れないながらもどうにか励まし、回復魔法を使わせてフーの気つけをする。
それから、目覚めたフーの爆発魔法で壁を破壊し――。
なんとか態勢を立て直して、私たちは塔の探索を再開するのだった。
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