第8話 気遣い

 それから一ヶ月が過ぎ、俺達は町で仕事を再開した。

 帰ってきたばかりの数日は、屋敷の人々に心配され、しばらくは部屋から出させて貰えず過保護な扱いを受けた。しかし今ではすっかりイヴァンのアシスタントとして各地へ出向いている。

 今日も別の町での視察を終え、ホテルに宿泊しているのだが、イヴァンはお風呂から上がりベッドに入ると、俺のおでこに口づけた後、明かりを消して眠ろうとする。

「おやすみ、アサヒ」

 王都から帰った日から、イヴァンは性的なスキンシップを一切しなくなったのだ。

 軽いキスをすることはあるが、それ以上は何もせず、夜も一緒に抱き合って眠るのみ。

 俺も深く考える前に眠ってしまっていたが、そんな日が何日も過ぎ、イヴァンの行動に疑問を感じ始めた。

 だって変態なイヴァンが、一切そういうことしないなんて変だ……

 おかしいと思いながらも、イヴァンに抱きしめられる形で今日も目を瞑る。

 どういうつもりなのかとしばらく考えていたところ、イヴァンが俺の後ろでモゾモゾと動いた。それに気づかないフリを続ける。

 目を瞑り、気配で様子を確認していると、イヴァンが布団から出ようとしていた。

「……何してるの?」

「アサヒ?」

 寝ていると思っていた俺が、いきなり声を掛けたことで驚いたようだ。

 息を飲む音がする。

「起きてたのか」

「うん。なんで布団から出るの?」

 以前、俺の住んでいたあばら家でも同じことがあった。

 その時のイヴァンは自分の欲望を吐き出すために家から出ていこうとしていたのだ。

 ベッドサイドの明かりを付けてみると、寝間着の上からでも分かるくらいイヴァンのモノが勃ち上がっていた。

「アサヒ、その……」

「一人でするの?」

 俺の言葉に少し躊躇いながらも頷くイヴァンだが、どう考えても『セックスしたい』というのを隠している。

「俺がいるのに?」

 俺は、なぜ自分とそういう行為をしないのか尋ねた。

「あんなことがあったばかりだ。傷ついたアサヒを怖がらせたくはない」

 一か月前のディルの件を言っているのだろう。

 あれに関しては、押し倒されたくらいで何もされてはいないと伝えている。

 そもそも、恋人に手を出されて怖いとは思わない。

 イヴァンは俺の心が繊細だと勘違いしているようだが、俺は過ぎたことなので気にしていなかった。

 むしろ、あの事件が解決して以来は夢遊病に悩まされることもなく、そのことを嬉しく思い喜んでいたほどだ。

「イヴァン、俺なんともないよ」

「しかし……」

 俺を傷つけそうで怖いと食い下がる言葉に、はぁ……と溜息をつく。

「じゃあイヴァンからは触らないでね」

 俺はそれを約束させると、硬く引き締まったお腹の上に跨る。

 謎の理由で俺と触れ合わなかったイヴァンには、少し反省してもらう必要があるな。

「アサヒ……?」

「俺が気持ちよくするから、触っちゃ駄目だよ」


(※次回、性的描写が入る為、エピソード非公開にしています。)

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