第4話
ひどすぎる……
こんなの、あんまりだ……
亜希子はよたよたと近寄ると、えるの隣に座り込んだ。
涙が止まらなかったが、頬は時折ひきつったように痙攣して、泣き笑いのような表情になっていた。
両親と弟、家、親友、夢、将来、すべて失ってしまった。
これが夢なら、これ以上の悪夢はないだろう。
部屋の片隅で亜希子は笑いと、嗚咽を一人繰り返していた。
亜希子の細い体が、壁にもたれかかったまま力なく床に座っている姿は、まるで糸の切れた人形だった。
「亜希子さん」
誰かの声がした。
「亜希子さん」
誰?
自分を呼ぶ声に亜希子は気づいた。
それから頬に固い何かが押し付けられている感触にも。
亜希子はそっと目を覚ました。
頬の下の机の冷たさが、心地よかった。
亜希子は、自分が机に突っ伏してまま寝てしまっていたことに気づいた。
とすると、さっきまでのえるとの会話はすべて夢だったわけ?
軽く瞬きをして周りを見たが、えるの姿はどこにもなかった。生きているえるも。死んだえるも。
亜希子はホッとすると同時に、いささか拍子抜けした。
現実としか思えないようなリアルな夢だったが、今こうして覚めてしまえば、ただの夢でしかなかったとよく分かる。
「ごめんなさい。遅れてしまったわね」
振り向くと、亜希子の目の前に一人の少女が立っていた。
「えっと、君…… いや、あなたは?」
少女はまるで精巧にできた、高価なピスクドールの様に美しく、かわいらしい顔立ちをしていた。髪は緩やかなウェーブを描いており、その顔つきや信じられないほどきめの細かい肌は間違いなく日本人、少なくとも東アジアの人間特有のものだったが、どこかエキゾチックな雰囲気があった。着ている服こそ、袖口と襟首に白のレースが縁どられただけのシンプルなものだったが、それだけに余計に少女のこの世のもとは思えない美しさが際立っていた。
身長からするに、年齢は亜希子とさほど変わらないと思われたが、その雰囲気から亜希子は敬語を使わずにはいられなかった。
「
そう言って平塚泉水は軽く頭を下げた。
髪がふわりと流れ、亜希子はそれを見て、なんて優雅なんだろうと、ただそう思うだけだった。
なぜか、自分と年の近いとしか思えない少女が施設の説明をすることに、少しも疑問を持たなかった。
それが自然なことにしか思えないほど、平塚泉水の挙動は堂々と、かつ流れるように自然体なものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます