同期コラボ(炎上)


 11月某日


 配信が終わった直後、マネージャーさんから連絡が来た。


『同期の日出川テレサさんとコラボしていただきます』とのことだが、大丈夫だろうか。いや、大丈夫ではない。(断定)


 VTuberのファン層はアイドルを求める者もいるので、異性との関わりには敏感だ。だからこそ、『私』のような男は排他される。当然といえば当然ではある。

 だからこそ本来は、俺というキャラクターが成り立ってから、じっくりと馴染ませていくのだろうが……炎上商法でもしているのかと錯覚してしまう。


 実際の運営の狙いとしては、デビュー配信の勢いのまま固定客を作ってほしいのかもしれないが、些か手段が強引だ。早速コラボともなると、イメージダウンをする可能性もあるわけだが中々リスクがある。此方を信頼しているのだろうか。

 それか、何か別の要因があるかだ。


 まだ配信者になったばかりの私があーだこーだ言うことは出来ないが、運営も炎上覚悟でしているのだろう。見当もつかないわけだが、何等かの策略があるのか。それとも日出川氏自体に何等かの問題があるのか。


ない、と言い切れないのがこの事務所である。

マネージャーさんに確認しなければならないかもしれない。


そんな時、通話アプリdosecordに一つの連絡が入った。


 

―――――――――――――――

日出川テレサ

少しお話出来ますか?

―――――――――――――――


 件の相手、日出川テレサ氏。

 マネージャーを絡めないコラボ前の打ち合わせかとも思ったが、そういうわけでもないらしい。

 単なる雑談、もしくは緊張をほぐす前準備といった所だろうか。

 それならば此方がしないメリットはないだろう。


―――――――――――――――

日出川テレサ

少しお話出来ますか?

―――――――――――――――

出溜田弁

勿論、構いませんよ

―――――――――――――――

日出川テレサ

ありがとうございます!!

―――――――――――――――


 丁寧な言葉遣いで会話は進行していく。日出川テレサ氏には好印象を抱いている。

 初配信の際も、丁寧な言葉遣いで且つ初々しさを感じさせるようだった。所謂『清楚枠』に当てはまる人物なのだろう。だからこそ炎上するのだが。

 ぶいらいふ!初の清楚枠とも言われる彼女、その本質を見極めるだなんて大層なことはしないが、どのような人物か知っておいて損はない。


『すみません、突然』

「いえいえ、全く気にしていないので大丈夫ですよ」

『そうですか……良かった』


 やはり、まともな人である。

公式設定では女子高生であったが、リアルでもそうなのではないだろうか。

リアルについて詮索するのは悪手とはわかっているが、会話の内容が大きく変わることになるため、把握しておくに越したことはない。


『これまで配信機材や方法は大人の方に頼ってばかりだったので…』


 あっ(察し)


「大人は頼るものですから、そこまで気にしないでも大丈夫だと思いますよ」

『そうですかね…?』


子どもにとって大人とは頼るものである。頼れる大人がいない場合は碌なことにならない。

とはいえこの少女、いつか自ら個人情報を漏らしてしまいそうな危うさがあるが大丈夫なのだろうか。そういった面や未成年の個人事業主という面倒さも踏まえて採用したと思うので、それらを打ち消せるほどの強みがあるのだとは思うが。


「――それで、どうして通話を?」


  結論を急いだかも知れないが、ほとんど見ず知らずの相手である私に情報を漏らし続ける可能性がある以上、話題を切り替えたほうがいいと判断した。

 だが、これも重要な内容である。

 もしアドバイスを求めているのならば可能な範囲内で答える必要がある。また、事務所に何等かの不満等があるのならば此方から掛け合うことも可能。

 バッチこい


『……時々自分を見失うことがあるんです』

「ふむ…」


 中々重たい内容な気がするが、マネージャーに相談したほうがいいのではなかろうか。思春期特有の考えすぎなのかはわからないが、対応可能範囲内であるため、相談には乗る。


『それで出溜田さんに迷惑を掛けるかもしれないので……』


 なるほど、と納得が出来た。

 多重人格的なものか、ハンドルを握ると人が変わる的なものかはわからないが、とにかく自分を見失うのだろう。

 見失うとひとえにいっても、自身のアイデンティティに対しての疑問や沸点などの変化など様々なものがある。確かにまだ子どもである彼女にとっては難しいものだろう。


「それならば問題ないですよ。日出川さんの好きなようにしてもらって」

『…本当ですか?』

「あれ、信用されてませんか?」


 当然といえば当然。

 コラボ配信時に事故が起こる可能性もあるが、そこは此方側で対応させてもらおう。幸い、かつての営業でそういった類のことには慣れている。

 とにかく、だ。


「私は恐らく事務所内で年長ほどになるかもしれません。つまり、立派な大人です」


まだ三十ではないとはいえ、事務所は若い人が多い。

年を感じて少し悲しくなるが、逃れることは出来ない宿命であるため受け入れている。


「大人には頼ってみるものですよ?」

『…そう、ですね。配信時、お願いします』

「ええ、承りました」


 ポロロンっと心地の良い音とともに通話が終わる。

 これで一つの胸のつっかえが取れたのならば良いのだが。子どもに対する対応は中々上手くいかないものだが、問題は無かったはずである。

 もし嘗ての同僚や部下の子どもに私という存在がバレたならば笑い話にも出来そうだ。


VTuberはよくキャラクターを作っている、と言われるが彼女の場合は素だった。

素で他者を惹き付ける魅力を持つ。つまり、配信者向きの才能があるのは確かなのだろう。少しだけ採用担当者への信頼が回復した。


嗚呼、中々どうして。


 



【初!同期コラボ】同期解剖で遊ぼうよ【出溜田弁/日出川テレサ】


「はい、というわけでコラボのお時間です」

『ぱちぱちぱちぱち〜!』


 コメント

 :メッセージが削除されました

 :これはあざとい

 :テレサちゃんは俺の嫁だってハッキリ分かんだね

 :コラボでも声色変わらないの草


「まあ、こうして早々コラボすることになるとは思っていなかったので驚きですね」

『確かにそうですね〜』

「理由は簡単。上からの指令」


 コメント

 :上からw

 :お前社長なんだろ!!

 :メッセージが削除されました


 反応としては大方予想通り。ユニコーン三割、一般ファン五割、初見二割ほど。

ちなみに初見のうちの一割がバイコーン、つまりカプ厨である可能性がある。

待機中の時点で3000を超えるほど同接がいたので中々注目度は高いらしい。


日出川氏は緊張することなく話をすることが出来ている。大丈夫そうではある。

いや、なんというか雰囲気がふわふわになっている。

配信でキャラを作っているわけではない。しいて言うならば、配信で酔っている。


 少し不穏だが、取り敢えずだ。

 

「今回は互いに二回目の配信ということでマシュマロを返していきたいと思います」

『まだ自己紹介すらまともに出来てませんからね〜』

「ええ。本当に」


 コメント

 :あれ、公式設定の読み上げは行ったはずなんだが…

 :これはまさか…!

 :ぶいらいふ伝統芸能の!


 「おわかりの方も多いようで」


 やはりファンはこの箱の特性というものを理解している。 

それはVTuberの方向性であったり、企画の内容であったり多岐にわたるわけだが。

そこまで大きな箱ではないものの、コアなファンが多いのかもしれない。


「真・自己紹介!」

『訂正回〜!!』

「それではやっていきましょう」


 コメント

 :いえ〜い

 :メッセージが削除されました

 :感情の籠もってない声で企画読み上げやめてw

 


◇ 


 日出川 テレサ

 

 学園内で誰もが知っている聖母。

 包容力と優しさで世界平和を目指している。


「へぇ…こんな感じなんですね」

『そうですね〜』


 コメント

 :これは清楚聖母

 :これが高校生はあかん

 :未成年にママみを感じた

 :おぎゃりたい


 確かに、現段階では違和感はそこまでない。

 おおらかなイメージを抱かせ、包み込む。設定的と現実の乖離は少ないだろう。

 コメント欄を見ても同じような感想を抱いているようだ。


「結構合ってるんじゃないですか?」

『ふっふっふ。実は違うのですよ〜』


 コメント

 :なん、だと?

 :可愛い

 :実際そうでもないんやろ?お父さん知ってる


『では、いきます!』


 共有画面の公式設定欄に斜線を入れていく。

 さてさて、一体どうなるのだろうか。



 日出川テレサ

    

 学園内で【一部の者しか知らない日陰者】。

 世界平和を目指している。 


 『どうですか!』

 

 ふんす、と胸を張る日出川氏。

 やはり配信を始めてからテンションが上がっているというか、酔っているという感覚がする。配信に何かしらの弊害が出るわけではないが、気をつけておくに越したことはない。


「世界平和は目指してるんですね」

『平和なのは良いことですから!』


 コメント

 :可愛い

 :メッセージが削除されました

 :学生なのは否定しないんだ。ふーん


『どうです〜まだピチピチのJKですよ〜』


 あぁ、まあここらが限度だろう。

 別に本人的に女子高生であることがバレても問題がないのならば此方から口を出すことはない。女子高生だとバレるがゆえのメリットというものも存在する。

 だがこれ以上だと個人情報を漏らしかねない。


「はい、ありがとうございました」

『え〜ケチぃ』

「ケチじゃありません」


 コメント

 :ケチぃ

 :パパかな?いやママか?

 :まあ情報と時間的に仕方ないか


「では私のものですね」


 出溜田 弁


 大企業の社長だが、業務に余裕が出来たため、道楽として配信を始めた。

 特技は札束で殴ること。広い人脈とコネがある。

 


「というわけなんですけど」

『社長さんなんですね〜』

「元、ですけどね」


 コメント

 :おっと風向きが

 :流れ変わったか?

 :元…? 


「はい、訂正していきます」


 


 出溜田弁   


企業の【元】社長だが、【会社が潰れたため】、【現実逃避で】配信を始めた。

特技は【仕事】。広い人脈とコネがある。

 


「以上でございます」

『えぇ……』


 コメント

 :えぇ…

 :特技仕事とか社畜やんけ

 :借金とか大丈夫なんか


 ドン引きされた。そこそこショックではある。

 まあ実際コラボで深くまで話をするような内容ではないため、詳しくは話さない。

 流石に未成年に社会の現実を見せるのは良くない。


「借金はやばいですよ。まじで」

『大丈夫なんですか…?』

「一時期自殺考えましたね。今は自己破産が常時チラつくくらいですが」


 コメント 

 :重いってぇ…

 :おいおい、あいつ死にかけたわww(ガチ)

 :リア充とか思っててスマン

 :これが…闇ぃ、ですかね 


「……この話は今はやめましょう」


 コメント

 :まあ未成年いるからな

 :呑まれるところだった

 :“今は“?


「私の会話デッキ的にしょっちゅう出てくるので、私のチャンネルでは話すかもしれません」

『こんな重い内容をですか…?』

「まあ、仕方がないです」


 コメント

 :あっ、あっ

 :隊長うぅぅ!

 :地獄かな? 


 ただ単に失敗をした無様な男の人生を駄弁するだけである。

 己の会話デッキの少なさを感じざるを得ない。


「マシュマロは沢山ありますからね」

『わーい!』

「まあ私宛は大抵ここで紹介することが出来ないんですけど」


 コメント

 :あっ

 :ちょっと男子〜!

 :メッセージが削除されました←これ 


 お陰でSNSの運用方法が多少理解出来たので、メリットのほうが大きい。

 マシュマロは雑談配信では必須といっても過言ではないほど活用されている。視聴者との距離しかり、情報の公開しかりが決められるため、気をつけなければならないが。その点、日出川氏には不安があるがマネージャーもマシュマロの選別には協力するだろう。

 人の人生を潰したともなれば、笑える話ではないからな。


 しかし、日出川氏の『自分を見失う』とはこれだけなのだろうか。

 それだけが気掛かりではある。



 ぶいらいふ!を語るスレpart××× 


603:名無しのぶいオタ ID:emIY42vfE

最初はどうなるかと思ったが、案外大丈夫だったな 


604:名無しのぶいオタ ID:PfbCAxnHR

出溜田がアラサーらしいからな。流石に大人なんやろ 


605:名無しのぶいオタ ID:PCvRH4Ua/

>>604

ただのアラサーだったら炎上の時点で無事じゃないんだよな…


606:名無しのぶいオタ ID:N7Ub/tx16

Q、因みに借金の金額は?

A、恐らく想像よりもある

これさあ……


607:名無しのぶいオタ ID:vme/YJoJR

ひえっ


608:名無しのぶいオタ ID:JaeENhjC7

取り敢えず火はある程度収まったということで……


609:名無しのぶいオタ ID:NzM7slez5

テレサと出溜田でジャネレーションギャップあったの笑う


610:名無しのぶいオタ ID:16gUwrCQK

>>609

十歳差やで 


611:名無しのぶいオタ ID:PuY8QEW3z

テレサちゃんのドン引き可愛い 


612:名無しのぶいオタ ID:yzem6wSWr

出溜田アバター一切表情動いてなかったが大丈夫なんか? 


613:名無しのぶいオタ ID:saTEJLCmw

これにはほろ酔いテレサちゃん目が覚める


614:名無しのぶいオタ ID:HxUe8WyB7

>>612

(表情筋は)ないです 


615:名無しのぶいオタ ID:nwdVjoeHN

高校生に配慮してあの会話なら本気でどれだけなんや……


616:名無しのぶいオタ ID:Bb9R6sNEN

自己破産してもええんやで?


617:名無しのぶいオタ ID:oiANjO5fe

>>616

はぁ、はぁ、敗北者…?取り消せよ。今の言葉ァ!

 

618:名無しのぶいオタ ID:5CF0ZsYJe

本人が敗北者だと認めている 


619:名無しのぶいオタ ID:vnZY5ne+i

これでブラック企業勤務だったのマ? 


620:名無しのぶいオタ ID:sBDZz0E9H

なんだその社会の闇鍋


621:名無しのぶいオタ ID:5h/GXT0DL

時折コメ欄にブラック企業戦士が現れたの笑う


622:名無しのぶいオタ ID:X7cpaa3Fj

平穏は何処へ……


  


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