借金をした。VTuberに生まれ変わった
満月の月食
借金した。VTuberに生まれ変わった
10月某日
経営していた会社が潰れた。
十億の借金をした。
別に経営難だったわけではない。それどころか軌道にのり、今後はより発展していくだろうという確信もあった。だが、結果的に会社は潰れてしまった。
会社の経営方針としては別に間違ってはいなかった。固定客や取引相手も出来ていたし、ほとんど黒字だった。だが、結果的に会社は潰れてしまった。
債務の保証人だったため、借金は返さなければならない。
何故なのか、と聞かれると様々な原因が思い浮かぶが、結果的に一つに集約される。
『自分のせいだ』
会社を経営する者として、いやしていた者として当然の思考である。
ひとえに自分の人を見る目が無かった。そうとしか言えない。だからこそ結果として会社は潰れてしまったのである。
当然の帰結。働いていた社員には顔を向けることが出来ない。
会社が潰れたとなれば、当然露頭に迷う。
幸い働き手はある。だが今のメンタルで働くと生産性が損なわれるだけだとわかっている。嘗てブラック企業で働いていた時よりも余程精神的に壊れている。
言ってしまえば社会の癌になり得てしまうのである。
自殺しようと思った。
最も簡単な逃走方法。それが死である。
だが死ななかった。いや、死ねなかった。
いざ死のうと思い、高所にいったとしても、踏み出す直前に様々な記憶が蘇った。
友人、父。その他は仕事でしか無かったものの、案外こうしてみると自分の人生の色どりは見えてくるものだった。
漫画などで死ぬ直前に謝罪をする場面は見かけたことがあったが、当時は半信半疑だった。
こうして実際に自分がなると、理解が出来た。
死という未知への恐怖しかり。今まで世話になった人達への懺悔しかり。人生への後悔しかり。
中々どうして一歩が踏み出せないものである。
――あまりにも中途半端で、気持ち悪い。
自分のことながら、全く持って度し難い。
◇
取り敢えず実家で暮らすことになった。といっても父しかいないわけだが。
単に無職、といってもいいわけだが田舎では周囲との関係性というものは大事なものであるため、時には体調不良、時にはリモートと題して乗り切った。
父は事情を理解しているものの、口うるさく何かを言ってくるわけではない。昔から変わらないものだと感心する。
とはいえ今まで生活が仕事で出来ていたため、暇で仕方がない。
久しくサブカルチャーからは離れていたが、これを機にネットサーフィンを始めた。
アニメや漫画は勿論、ゲームなども昔とは様変わりしており、時の流れを感じる。まだ20代ではあるものの、おじさんのような感想を抱く。タイムスリップしたかのような感覚だ。
◇
VTuberというものを見た。中々どうして面白い。
会社としても案件を頼もうという企画がかつてあったと記憶している。実行されることこそ無かったものの、それはVTuberの持つ影響力を表している。
ならば最も有効的に使う方法は……
――などと考えてしまうのは悪い癖だ。
今の自分は会社の経営者ではなく、ただの無職ニート。ただ一人の視聴者として見るだけだ。
……しかしこうして見続けているとグッズが買いたくなる。これがファン心理か。
VTuberの持つエンターテインメント性、アイドル性はこれからも拡大し続けるだろう。
◇
知り合いに頭を擦り付けて得た金で株をしている狭間、ついついVTuberを見ることがある。
といっても大手の有名、それこそ100万を超えているような大物ばかりだが。
トーク力、企画力、歌唱力、プレイングスキル。
配信とは簡単なように見えて様々な力が必要となる。そう考えると、その努力、才能は素晴らしいものがある。面接担当には眼力が備わっているのだろう。
しかし、此処までVTuberを見るものだとは思っても見なかった。
現実でのことがあり、二次元、つまりバーチャルに魅了されたのかもしれない。
恐らく、嘗ての自分に言ったのならば『仕事しろ』と返されて終わるだろう。自分でも借金を返すためには仕事をしなければならないと自覚はしている。
◇
――VTuberになりたい。漠然とそう思った。
自分で自分の考えが理解出来ないなんていうことは初めてではあるが、決心は固まっている。自分で自分の自制が出来なくなっているという自覚はあるが、止められない。
以前ならば札束で叩くのもありだったが、今はそういうわけにもいかない。
土☆下☆座TIME
もう今月で何度目かわからない土下座ではあるが、しなければならない。因みに相手は父親、人生で10度以上の経験がある熟練者だと言っても良い。
VTuberという職種は収入が不安定である。だからこそ父には負担になるかもしれない。
軽く許可してもらえた。昔からそういう人ではあるものの、驚いたのは事実である。
……父親もVTuberが好きらしい。目の前にグッズを大量に出された。この人、所謂オタクに該当するのだろう。久々に表情筋が動いたような気がした。
資産はかつての仕事中に溜まっていったものが数千万ほどある。これを使えば足りない機材は補えるだろう。借金の返済に消えていくのを考えると、これが最後の贅沢かもしれない。自己破産は最終手段だ。
返せる可能性は限りなく低いため、いつか自己破産することにはなるだろう。
とはいえ、応募が落ちる可能性のほうが圧倒的に高いわけだが。
◇
書類審査から始まる。かつての初めての就職を思い出す。
応募する企業、いや箱というべきか。『ぶいらいふ!』という箱にした。
正直いうとそこまで大きな箱ではない。トップが50万いかない、平均は10万ほど。だがそれでも、此処が良いという勘が働いた。全く根拠がなくて笑ってしまう。
とはいえ、自分が受かるという確証は全く無い。もし自分が採用担当者ならば必ず落とす。
トーク内容もニート、仕事くらいしかない。声はかつてのブラック営業時代に褒められたことはある。歌は歌うならば仕事をしていたためわからない。ゲームは10年ほど前からしていない。
こうして客観的に見てみると、VTuberに向いていないことは一目瞭然だ。
駄目だった場合も踏まえ、新たな職場も探しておく必要がある。
かつてほど仕事に打ち込める自信はないが。
……なんというか、初恋の人を憧れの目で見ている時のような感覚がする。
まあ、自分はそんな甘いものではなかったが。
BSSやNTRというジャンル。もう十分だろう。
◇
受かった。
は?えぇ…(ドン引き)なんで落とさないんだ担当者ァ!相川もおかしいよ……
受けた自分がいうのもあれだが、採用担当者には眼科と精神科を勧めよう。
まさか明らかな地雷持ちである自分が受かることになるとは思っても見なかった。
ゴミみたいな過去持ち、配信者に向いていない、女運無し。明らかな地雷である。
企業方針的には大丈夫なのかもしれないが、厄介事になることは確実である。
とはいえ、受かったならばそれは仕事。こなす必要がある。
マネージャーさんと打ち合わせをしたら、『ありのままで大丈夫です』と言われた。
えぇ…(ドン引き)
こんなゴミ人間の虚無配信など誰も見たくはないだろう。とはいえ、相手はこの道のプロ。それに従うのが吉だというものだ。多分、きっと大丈夫だろう。うん。
自分は過去に配信を行っていたわけではない。つまり、『転生』ではないのだ。
会社からすると、能力的には不明な部分が多い。
なのにこれは大丈夫なのだろうか。いや、これがエンターテインメント!
配信機材は会社持ちらしい。それはありがたい限りである。経費として落ちるのだろう。
パソコンは今までノートパソコンが多かったため、こうしてデスクトップ――それも高性能を渡されると、畏れが出る。マイクなど今まで一切関わりが無かったものもある。
だがこれはこれで、VTuberなのだという実感が湧くというものだ。
◇
所謂『ガワ』とのご対面である。
ちなみにV界隈では、担当の絵師のことを『ママ』と言うらしい。嗚呼。
絵師である”まゆゆ氏”のことを、これからは『ママ』と呼ばせていただこう。
パソコンに送られてきたフォルダからガワを見る。
――どなたかな?
共通点は黒髪黒目のみ。自分の顔はこんなに整っていないし、身長もこんなに高くない。いや、もう一つだけの共通点。目が死んでいる。とはいえ暗鬱とした雰囲気なわけではないが。
まあだからこそVTuberを実感出来るということだろうか。
名前は出溜田 弁。歴史上の成功者であるデルとベンジャミンから取ってきているように思えるのは考えすぎだろうか。あと、初見では読めない。
設定は、皮肉か?
『成功した大企業の社長。業務の狭間に道楽として配信している』
いや、仕事しろ。
設定と現実でのギャップでの笑いを誘っているのだろう。企業方針がアイドルではないとはいえ、中々にはっちゃけているように思える。会社を下調べした時からわかっていたことだが、実際に体験してみると中々分かりやすい。
だがそれでもガチ恋勢、ユニコーンというものは湧くものである。アイドルに処女性が求められるのは当然の理。叩かれるのは目に見えている。まあ、無いものを叩いたところでそれは空振りでしか無いわけだが。
因みに4期生、つまり同期は女性らしい。名前は日出川テレサ。
あれ、なんだか煙たいな。
公式SNSも稼働した。といっても自分で使ったことはほぼ無いので運用方法は余り理解していない。一般的に活動報告や、日常などを投稿すればいいらしい。
続々とフォロワーが増えていく様子は見ていて面白い。所謂『箱推し』と呼ばれるファンだ。
VTuberという職業的に当然のことではあるが、他者から見られているのだと実感する。同じ会社の先輩――自分よりも年下ばかりだが、からもフォローされる。最低限の挨拶くらいはしたいものだが、現段階で勝手に行動すると火の粉となる可能性がある。止めておこう。
そもそも男性VTuberの母数が少ないのである。箱内に限れば2人と半分だけ。
そりゃ炎上するだろう。
ちなみに、既にDMで罵詈雑言は届いている。
おお、怖い怖い。
女性の方々とは当分関わることは出来ないだろう。
11月某日
初配信、つまりデビュー日である。
配信待機場には既に低評価の嵐。カプ厨、いや『バイコーン』とでも言わせてもらおうか。そういった者もいるが、ただ油を注いでいるだけである。祭りかな?
まあこの程度で揺れるようなメンタルは無い。自分でやると決めたことに対しての責任感や、初めての配信活動という緊張のほうが余程大きい。
同期の女性、または少女のデビュー配信は高評価で終わった。ある程度の固定客も付くであろうため、十分成功である。俺の嫁文化も出ている。
さて、自分の番である。
コメント欄は加速し、誹謗中傷に値するような言葉が吹き荒れている。だが所々には期待するような声、擁護するような声もある。
コメント
:直結厨死ね
:さっきからの落差が酷いww
:おwとwこw
嫉妬なのか、恋心なのか。敵対心なのか、猜疑心なのか。ただ、人を貶めたいだけなのか。
わからないが、アンチの者達は良い感情ではないことだけでは確かである。
ただ、あるがままに。マネージャーの言う通りに。
そして、採用担当者、社長の意図を組むために。
「―――どうも、初めまして。出溜田 弁と言います」
11月◯日
同期の方と早速コラボすることになった。
なんでやねん。ああ、炎上だ。
まあ、初配信で答えられなかった質問に答える事ができるのでよしとしよう。
【初配信】どうも、初めまして【出溜田 弁】
最高同時接続視聴者数:13098人
高評価:2064
低評価:5083
チャンネル登録者数4387人
◇
ぶいらいふ!を語るスレpart×××
455:名無しのぶいオタ ID:QTROFAU2f
どうですかい、今回の4期生は。
456:名無しのぶいオタ ID:5sA8GL+gf
テレサちゃん可愛い!!
457:名無しのぶいオタ ID:DG8GMXy06
ワイの新たな嫁や
458:名無しのぶいオタ ID:v29vbfrjV
>>457
なぁんだ!浮気か?重婚か?
459:名無しのぶいオタ ID:Qond7BpWp
>>457
現実での寂しさを紛らわせてるんだよね。わかるよ
460:名無しのぶいオタ ID:JCh5W6Os5
ここにいる時点で全員同類だろ
461:名無しのぶいオタ ID:CFdbjMrZl
あ゙っ(絶命)
462:名無しのぶいオタ ID:ILIUkkWZw
>>460
それは言っちゃあかん約束やで
463:名無しのぶいオタ ID:Fhfv/zDJK
言及されない出溜田に草生える
464:名無しのぶいオタ ID:JgorJCD2m
声や仕草からして明らかハイスペじゃねぇか!明らかな可燃性、かつ地雷だからそりゃあ…
465:名無しのぶいオタ ID:T7CINFPSM
なお声の抑揚
66:名無しのぶいオタ ID:WGwg/7cfM
>>465
最初そういうロボットかと思った
467:名無しのぶいオタ ID:2XnlEbsw6
>>465
あれ死んでるんじゃないか?
468:名無しのぶいオタ ID:LIfQtNLfW
配信は可もなく不可もなかったが。まあ三人目の男枠やし、どうせおかしいんやろ
469:名無しのぶいオタ ID:2kALlwJF2
>>468
ぶいらいふ!に毒されてて草
470:名無しのぶいオタ ID:hgC9XNmf+
み゙っ!
471:名無しのぶいオタ ID:OYsdNn1D0
【速報】新人コラボ
――日出川テレサ@ぶいらいふ@teresa_hidekawa――
初配信に来ていただきありがとうございました。
これからも活動していくのでお願いします!!
次の配信予定は……なんと同期コラボ!!
―――――――――――――――――――――――――
472:名無しのぶいオタ ID:1viKGkdMy
何 故 炎 上 し に い く の か
473:名無しのぶいオタ ID:XyQKuTaFc
もうこれ運営からのイジメだろww
474:名無しのぶいオタ ID:TjD9K1il0
そら(同期とはいえ異性でコラボとか)そうよ(炎上するよ)
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