第2話

兄が警察官になってから一年が過ぎた。

あれから僕は、ゴーストという組織に入った。

ゴーストの主な活動は暗殺やスパイ、護衛などたくさんの仕事がある。

 ゴースト内では10グループに分けられている。そしてそのグループのリーダーが刻(こく)と呼ばれている。

グループによって役割は違う。

一刻は司令部。ニ刻はスパイ。三刻は医療。

四刻は偽装。五刻は情報収集。六刻は暗殺。

七刻は戦闘。八刻は補助。九刻は護衛。十刻は育成。

そして僕は、その中の七刻の二代目になるために訓練を続けている。

二代目になるにはまだ、経験を積まないといけないと師匠が言ってたが、師匠はもう仕事をせず、その仕事を僕がしているので実質、もう二代目に変わったようなものである。

「235…236ッ……237…」

師匠に毎日続けろと言われたトレーニングをしているとドアがノックされ、ルカが冷たいお茶と一緒に黒い封筒を持ってきた。

「七刻様、ボスから指令が届きました」

「ありがと」

僕はルカから黒い封筒に赤い文字で【七刻様】と書かれた手紙を受け取った。ゴーストでは依頼が入った封筒は黒いのだ。

 ちなみにルカは僕の付き人である。付き人というのは刻の身の回りのお世話や、客人をもてなしてくれたりする、いわゆる、メイドや執事みたいなものだ。だいたい、1人の刻に2、3人は必ずいる。ルカはそのうちの1人であった。

近くにあった椅子に腰を下ろし、封を切った。

『警察本部へ侵入し、捕まった隊員三名を救助しろ。

この任務はニ刻と七刻の合同任務で行え。

日時 6月10日 夜9時決行予定

詳しくは資料にある』

僕はルカが入れてくれた冷たいお茶を一気に飲む。

「ルカ、しばらくしたら重要書類と書かれた黒い書類が一刻か五刻から届くと思うから受け取ったら僕の書斎に運んでおいてくれ」

「わかりました。カナと、鈴屋さんにも伝えておきます」

そう言って、タオルを渡してくれる。

「今、何時ぐらい?」

「そうですね、今、7時半ごろでございます」

「七時半?!」

僕は急いで立ち上がり汗を流すために風呂場に向かった。

(やばい!流石に早く家に帰らなかったら母さんに怒られる!)

急いでシャワーを浴び、軽く髪を乾かしたあと高校の制服に着替える。

「七刻様、まだ訓練をしたいのでしたらマヤに変装をさせ家に帰ったことにできますが…」

ルカの言葉に僕は首を振る。

「いつもだったらお願いしたかもしれないけど、僕の兄は騙せないんだ」

僕の言葉にルカは何かを察し、それ以上何も言わなかった。

「明日は入れ替わるからマヤに言っておいてくれ!」

僕はそう言いながら七刻の拠点を飛び出した。

(急げ!)


なるべく早く走ったが家に着くと玄関で兄と母が話している声が聞こえ、扉にかけようとした手を止めた。

しばらくすると静かになり、僕はもう一度とびらに手を伸ばす。

ガチャ

「「…」」

「おかえり?」

「ただいま…」

驚きつつもそう返すと、玄関に立ってた母が困った顔をしていた。

「蓮ちゃん、遊びに行ってたのはいいのだけれど、ちゃんと遅くなるくらいは教えて欲しいわ…」

「…うん…ごめんね」

僕がそういうと、母も兄もホッとしたような表情を浮かべた。

「さぁ、早くご飯を食べましょう?」

母は僕たちににっこり笑いながらリビングへ向かった。

「蓮斗、お兄ちゃん心配したんだからな?」

「兄さん…ごめんね」

僕がそういうと、兄は僕の頭をくしゃくしゃになるほど撫で回した。

「まぁ、次からは連絡しろよ!」

「…」

並んでリビングに入るとテーブルの上には誰の誕生日でもないのにスイーツ屋さんのいちごのショートケーキが置いてあった。

母は夜ご飯を食べるためにケーキを冷蔵庫に移したが、僕と兄はそれをチラッと見て目を逸らした。

(そういえば今日は、なんでもない誕生日だ…)

なんでもない誕生日とは、母が6月7日にケーキを買ってきて、『ハッピーバースデー』と言うから付けられた名前の日だ。

「…今日は夜ご飯何かな?」

兄が話を逸らそうと母にそう聞くと母は、器に盛り付けられたハンバーグを持ってきた。

「今日は大和が大好きなハンバーグよ!」

兄はハンバーグと聞いて嬉しそうににっこり笑った。

「母さんのハンバーグは、久しぶりだなぁ」

兄が嬉しそうに食べ始める。僕もハンバーグを食べた。

「そうだ。大和は最近、お仕事どうなの?大変?」

「うん、大変だけど楽しいよ」

大和が幸せそうな顔でそう言うと、母はほっとした表情を浮かべて笑った。

「ならよかったぁ!…蓮ちゃんは?学校どうなの?」

ハンバーグをもぐもぐしていると今度は僕に話題が振られた。

「学校?楽しいよ。勉強はまぁできるし…」

母は満足そうにニコって笑った。

兄も嬉しそうにニコニコしながら大好物のハンバーグを食べていた。





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