03.Aquamarine





「みて、麗子さん。フグ!」



「そうね」



「あ、ハリセンボンもおる!!」



「……そうね」



「ウニ!!!!!」



「…………トゲのあるものが好きなの?」



「いやー。にしても、おしゃれっすねぇ。

ここの水族館のディスプレイ。テンション上がりますわ。

ほら、これなんて勝手に波が出来てますよ」



「評判の良さは、最近建ったばかりってだけじゃないみたいね」



「え、評判まで調べてくれたんですか?」



「……たまたま、耳にしただけよ」



「俺は"アクアマリン"って聞いたら、海しか思いつかんかったもんなぁ。

麗子さんの言う通り、ココにして正解でしたね。"サンゴ"も見られるし。」



「そうね。海開きには早すぎるもの」



「え、開いてたら泳いでた?」



「まさか。想像できないでしょう」



「そやね。なんなら海辺に居る姿すら想像できん」



「あ!」



「えっ、何!?なんかあった!?」



「クラゲ」



「え。あ、あぁ……うん……好きそう」



「今にも消えてしまいそうな、儚さが素敵よね」



「まあ、わからんでもないですね。

同じ時間軸で生きてるとは思えん、このゆったり感とか。

……集団で無感情に漂ってるの、ちょい怖くもありますけど」



「それがいいのに」



「……俺らはクラゲに成れないんすよ。麗子さん」



「……何の話?」



「いや、今にも言い出しそうやったから。

『こんな風になりたい』とかって」



「私の頭の中、そんなに透けてる?」



「全然。1割の経験と、9割の勘っす。

もっと透明でも良いくらいですよ、この子ら見習って」



「そうよね。

もし私が、全てを見せられていたなら——

『何考えてるかわからない』なんて言葉、

最後に贈られることもなかったのかしら」



「それって…………………」



「……ごめんなさい、今のは忘れて」



「…………わからんからこそ、知りたくなるけどね。俺は」



「ほんと……物好きよね」



「いやいや。

みんな気付いてないだけで、普通に沼ですよ。

麗子さんの、意外と慈悲深い所とか」



「評価対象、間違ってない?

私、冷たいと言われることがほとんどなのよ」



「そんなん、表面しか見てませんやん。

麗子さんは、情のある人でしょ。

それに、一方的な主観を押し付けることもせんし。

人をからかうことはあっても、傷つけたり、嫌な気分にさせるような言葉、絶対使わんし」



「それは、君が寛容なのが大きいと思うわ。

……それにしても、そんな簡単な基準でいいの?」



「それが簡単やないなってきてるんすよ、今は」



「あら。おかしな世の中のおかげで、随分ハードルが下がったのね」



「うーん、やっぱオカシイよなぁ。

純粋な賞賛や応援の声よりも、誹謗や中傷の方が本人の心に深く届いてまうのって、なんででしょうね」



「それは仕方のないことだと思うわ。

でも……全ての人に認められる必要、ないのにね」



「ほんとそう。

見てるだけで辛いっすよ。善意の声は、たくさんあるのに。

まるで『転売目的の奴にばかり、チケットが当選する』みたいな、やる瀬無さ。

いや勿論、そういう度が過ぎた行為をする奴が悪だと、わかってはいるんやけど」



「…………その例えは置いといて。

実力も、努力も踏みにじるような言葉は、耳に入ってほしくないわね」



「うん」



「せめて、当人がそこに懸けた時間、労力や想い……それらがあっての結果だと、理解ある人の言葉だけ届いてほしいって、祈るしかないのかしら。

その全てが賞賛だとは限らないことも、理解する必要はあるけれど」



「いやー。見分けるの難しいな、それ………

って、めちゃくちゃ話それましたね」



「そのようね。慣れないことをしたわ」



「俺、頭使うの苦手やから……

麗子さんとはいつも通り、浅ーいところで、寄せて返す波のような会話をしときたいんすよ。

"永遠に"ね」



「…………」



「あれ。流石に抽象的すぎた?

上辺って意味やなくて、そっちの方が素でおれるっていうか……」



「いえ、悩んだの。同意しても良いのか。

他意はないのよね?」



「え、他意?…………あぁ。

………あるって言うたら?」



「持ち帰って検討」



「それ、次までにちゃんと持ってきてくださいね」



「……努力するわ」




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