01.Garnet





「3……2……1…………

わーーー麗子さん、今年も明けましたね」



「おめでとう」



「あけおめです」



「年々早くなるわね」



「ほんま、あっという間っすね。

濃い一年やった気ぃもすんのに」



「私は、ずっとここで過ごしていたような気がするわ」



「ええやん。第二の家って感じで。

最初はこんな気に入ってもらえると思ってなかったけど。……勝手なことしてもーてたし」



「自宅から徒歩圏内なのが良いわよね」



「……それだけが理由ですか?」



「そうよ。他に何か」



「や、素直に言ってくれるとは思わんから諦めマス」



「賢明ね」



「さて。そろそろ年越しそばならぬ、年明けカクテルだしますね。

今回はオリジナルなんすけど」



「ありがとう。あら、この香り……

そっか。もう1月だから……今月は"ガーネット"ね」



「そうそう。

んで『柘榴ざくろ石』なんていわれたら、そらもうザクロ以外は考えられんやないですか」



「そうね……あ、程良い酸味。美味しい。

ザクロのカクテルってあまり馴染みがなかったわ」



「そうですよねー。

そりゃグレナデンはあるけど、メインってわけにはいかんし、甘くなりすぎるんも……とか色々悩みまして。

かなり探した結果、ようやく理想のリキュール見つけられました」



「……それ、今回以外にも用途はあるのよね?」



「はは。まあナイですね。うちでは。

空き時間に自分で消費します」



「君……尽くすタイプって言われない?」



「そりゃもう。自他共に認める生粋の忠犬っすよ」



「難儀ね」



「麗子さんは猫ですね、間違いなく」



「私、爪切りで暴れたりしないわ」



「……ジョークのつもりっすか、それ。

もちろん内面の話ですよ。

つかみどころがなくて、媚びないところとか」



「褒め言葉として受け取るわね」



「まあ実際、そういうところが良いんですけど」



「……『難儀』としか思えないけれど、

語彙力失ったのかしら、私」



「てか、今回思ったんですけど……

ガーネットの[唯一無二]感、めっちゃかっこいいですよね」



「今となってはそうね。不動のオーラを感じるわ」



「なんかさぁ。自分だけが選ばれるって優越感、俺も味わってみたいなぁって。絶対鳥肌モンですよ」



「君のその特別感への固執……お兄さんと関係があるのかしら」



「あ、そうかも。コンプレックスってやつですかね」



「私には、二人の間に優劣があるなんて到底思えないわ」



「ええ、そんなん初めて言われましたよ。

俺の評価って、基本的に『ようの弟なのに』からはじまるし。

俺の前で『ここに居るのが永なら』とか、しょっちゅうっすね。

あとは兄貴に振られた人から、腹いせで『代わりに付き合って』とかも言われたなぁ。

流石に断りましたけど。『代わりには、なられへんよ』って」



「……よく拗らせないでいられたわね」



「良くも悪くも、楽観的なこの性格のおかげっすね」



「あのね。君、気が付いてないだけよ」



「え、何に?」



「今のままで、十分すぎるほど秀でているってこと。

身勝手な他人の物差しを、何度も押し付けられていながら、

それでも他人への思いやりを捨てていない君は凄いのよ」



「……やっぱ麗子さんの言葉って、媚びがないですよね」



「そう?責任が取れる範囲のことしか、口にしない主義なの」



「そんな麗子さんに認めてもらえたら、

これ以上ない特別感があるんやろなって思う」



「認める、なんて私が言うのは烏滸がましいわ。

でも……君は、私の鎖を外してくれたでしょう。

その時点で既に、私にとって唯一無二なのよ」



「麗子さんにとっての……唯一無二……?」



「あら。気に入らなかった?

悪いわね、上手くなくて」



「…………あーーー………麗子さん」



「何?」



「好き」



「…………随分ストレートね」



「ね。麗子さんに贈るにはチープかなって思って言わんようにしてたんやけど。

なんかもう、これ以上の言葉思いつかんかった」



「同じだけ返せないこと、申し訳なくなるわ」



「ええんすよ。十分です。年越しも一緒にできたし。

でもやっぱ、もっと違う意味で麗子さんの特別になれるよう頑張ります」



「……受け止め切れるか心配ね」



「あ、言うの忘れてた」



「今度は何?」



「麗子さん、今年もよろしくお願いします」



「あぁ、それなら返せるわよ。

こちらこそ、どうぞよろしくね」



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