11.Topaz&Citrine
◇
「……うあーー!きんちょーしたー!」
「急に何?さっきまで大人しかったじゃない」
「だって!あのダーツバー、お洒落空間すぎて息できんかったですもん!
麗子さんは似合ってましたけど」
「何を今更。
あなたも一応、マスターでしょう」
「実は……今までバーって行ったことなかったんすよね。自分の店以外で。
カクテルとかは全部、兄貴から教わったし」
「あぁ、道理で。
バーテンダーのオーラがないのも納得ね」
「しゃーないでしょ。酒好きの友達もおらんし」
「それは意外だわ。じゃあ私が初めてってこと?」
「……麗子さんは友達じゃないから対象外」
「あら、そう。………………ふふ」
「え、なんか笑ってる。何?」
「思い出しちゃった。さっきの君のフォーム」
「やーめーて!忘れて!
もー。だからゆうたのに。
やっぱ辞めときゃよかった…………」
「おかげでまたひとつ、宝箱に積もったわ」
「……そらよかったですねぇ。
俺的にはすーげぇ不本意ですけどねぇ」
「そのようね。……ふふ」
「あーもー……絶対また思い出してるやん……。
……で、この後どうします?どっか行きたいとこある?」
「特にはないわ」
「……帰りたい?」
「それだと少し……味気ないわね」
「あ。じゃあ、うちの店来るのどうですか?
もちろん営業はせんけど。
考えてたんすよ、今月の分」
「いいけど……。
毎月、無理に石と絡める必要ないのよ。
『宝石のような日々』なんて、ただの比喩なんだから」
「いやー、だんだん楽しくなってきて。
まぁ全部、こじつけの自己満足ですけどね。
くだらんつまらん、陳腐でチープ……なーんて言われるかもしれんけど」
「そんな語呂が良いだけの虚しい言葉、私が口にすると思ってるの?」
「全く思わへん。言うてみただけっす」
「それで今月は?」
「そうそう。今月は、"2:1:1"……黄金比で作ったカクテルにしよかなって」
「………それ、"トパーズ"が『黄玉』だから、なんて言わないよね」
「驚くべきことに、"シトリン"も『黄水晶』なんすよ!どっちも黄金色のイメージありますし」
「……もはや連想ゲームね」
「この比率で色々と作れますけど、何がええかなぁ。
一回作ったのは芸ないやん?
やから、ホワイト・レディとかxyzは除くとして——」
「あれぇ?瞬じゃなぁい?」
「え、ダレ………………げっ」
「なぁによ『げっ』て!
最近のお得意様でしょ?アタシ!」
「……何してんすか、こんなとこで」
「いやー。休みなの知らなくて、瞬の店行っちゃったんだよねー。
んで今、駅まで戻ろうとしてたとこ!丁度会えてラッキー」
「ふーん。珍しいっすね、平日来たことないのに」
「きーてよ!今日飲み行く約束してたのにさぁ、集合時間10分前にドタキャンされたんだよ!!」
「それは悲しいっすね。では、また」
「え、冷たっっ!!
ヤケ酒くらい付き合ってよーーー!!!」
「いやいや……
今俺、人と居るの見えません?」
「えっ、ウソ!見てなかっ……て、うわ!すっごい綺麗な人!」
「こんばんは」
「……ってことで。腕、離してください」
「離さなくていいわよ。
私、この後用事あったの思い出したから。
行ってきてあげて」
「え?いやいや、麗子さん……ウソですよね?」
「ここで嘘つく必要あると思う?じゃあね」
「え!ちょお待ってよ!麗子さん!」
「あらー、歩くの早。瞬もフラれ仲間だね。
アタシが慰めちゃるから居酒屋いこー!!」
「行きませんよ!!ほんでフラれてへん!!
ちょ、俺追いかけなあかんので、はよ離してください!」
「やめなよー。用事あるって言ってたじゃん?」
「あんなん絶対ウソやし!はーなーしーて!!!」
「ちぇー、つまんなぁ。
じゃあ、ばいばーい……って走んの早」
「………………麗子さん!」
「………………」
「れ、麗子さん?」
「なんで来たの?」
「え?なんでって……」
「……いるんじゃない。
お酒が好きな、可愛いガールフレンド」
「え!?そんなんちゃいますよ。
ただのお客さんですって」
「親しい間柄に見えたけど?」
「いやいや。連絡先も教えてないですし。
なんやしりませんけど、俺をからかいに来るんすよ。ほんまにそれだけです」
「言ったのに。私に構わなくていいって」
「あの……自意識過剰かもしれませんけど……。
もしかして麗子さんそれ…………
ヤキモチ、ですか?」
「………………」
「………………」
「……………………私、臆病なの」
「へ?いきなり?」
「二度と吸いたくないのよ。
あの時のような、薄い空気は」
「………………」
「だからもう、他人を自分の中心に置くのは御免だわ」
「…………なるほど」
「わかったなら——」
「それやったら俺、麗子さんの中心に入れんでもいいですよ」
「………………」
「中心に居れんくても、俺が勝手に麗子さんの周りにいます。絶対に俺から離れることはないって断言します」
「そんなの……いくらでも言えるじゃない」
「でも知ってますよね?俺、諦め悪いんですよ」
「…………こんな面倒な女を選ぶなんて、本当に難儀ね」
「何言うても無駄です。
麗子さんが俺を嫌いにならない限り。
だから今後、麗子さん側が悲しむことはないですよ」
「ふ。頼もしいわね」
「お、珍しく褒められた?
あ、そや。『恋は焦らず』。
今月は"バラライカ"にしましょか。
黄金比カクテルの兄弟っすよ」
「ゆっくりで良いってことね」
「……まあ、俺的には急いで落ちてくれても構わんのですけどね」
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