11.Topaz&Citrine





「……うあーー!きんちょーしたー!」



「急に何?さっきまで大人しかったじゃない」



「だって!あのダーツバー、お洒落空間すぎて息できんかったですもん!

麗子さんは似合ってましたけど」



「何を今更。

あなたも一応、マスターでしょう」



「実は……今までバーって行ったことなかったんすよね。自分の店以外で。

カクテルとかは全部、兄貴から教わったし」



「あぁ、道理で。

バーテンダーのオーラがないのも納得ね」



「しゃーないでしょ。酒好きの友達もおらんし」



「それは意外だわ。じゃあ私が初めてってこと?」



「……麗子さんは友達じゃないから対象外」



「あら、そう。………………ふふ」



「え、なんか笑ってる。何?」



「思い出しちゃった。さっきの君のフォーム」



「やーめーて!忘れて!

もー。だからゆうたのに。

やっぱ辞めときゃよかった…………」



「おかげでまたひとつ、宝箱に積もったわ」



「……そらよかったですねぇ。

俺的にはすーげぇ不本意ですけどねぇ」

 


「そのようね。……ふふ」



「あーもー……絶対また思い出してるやん……。

……で、この後どうします?どっか行きたいとこある?」



「特にはないわ」



「……帰りたい?」



「それだと少し……味気ないわね」



「あ。じゃあ、うちの店来るのどうですか?

もちろん営業はせんけど。

考えてたんすよ、今月の分」



「いいけど……。

毎月、無理に石と絡める必要ないのよ。

『宝石のような日々』なんて、ただの比喩なんだから」



「いやー、だんだん楽しくなってきて。

まぁ全部、こじつけの自己満足ですけどね。

くだらんつまらん、陳腐でチープ……なーんて言われるかもしれんけど」



「そんな語呂が良いだけの虚しい言葉、私が口にすると思ってるの?」



「全く思わへん。言うてみただけっす」



「それで今月は?」



「そうそう。今月は、"2:1:1"……黄金比で作ったカクテルにしよかなって」



「………それ、"トパーズ"が『黄玉』だから、なんて言わないよね」



「驚くべきことに、"シトリン"も『黄水晶』なんすよ!どっちも黄金色のイメージありますし」



「……もはや連想ゲームね」



「この比率で色々と作れますけど、何がええかなぁ。

一回作ったのは芸ないやん?

やから、ホワイト・レディとかxyzは除くとして——」



「あれぇ?瞬じゃなぁい?」



「え、ダレ………………げっ」



「なぁによ『げっ』て!

最近のお得意様でしょ?アタシ!」



「……何してんすか、こんなとこで」



「いやー。休みなの知らなくて、瞬の店行っちゃったんだよねー。

んで今、駅まで戻ろうとしてたとこ!丁度会えてラッキー」



「ふーん。珍しいっすね、平日来たことないのに」



「きーてよ!今日飲み行く約束してたのにさぁ、集合時間10分前にドタキャンされたんだよ!!」



「それは悲しいっすね。では、また」



「え、冷たっっ!!

ヤケ酒くらい付き合ってよーーー!!!」



「いやいや……

今俺、人と居るの見えません?」



「えっ、ウソ!見てなかっ……て、うわ!すっごい綺麗な人!」



「こんばんは」



「……ってことで。腕、離してください」



「離さなくていいわよ。

私、この後用事あったの思い出したから。

行ってきてあげて」



「え?いやいや、麗子さん……ウソですよね?」



「ここで嘘つく必要あると思う?じゃあね」



「え!ちょお待ってよ!麗子さん!」



「あらー、歩くの早。瞬もフラれ仲間だね。

アタシが慰めちゃるから居酒屋いこー!!」



「行きませんよ!!ほんでフラれてへん!!

ちょ、俺追いかけなあかんので、はよ離してください!」



「やめなよー。用事あるって言ってたじゃん?」



「あんなん絶対ウソやし!はーなーしーて!!!」



「ちぇー、つまんなぁ。

じゃあ、ばいばーい……って走んの早」



「………………麗子さん!」



「………………」



「れ、麗子さん?」



「なんで来たの?」



「え?なんでって……」



「……いるんじゃない。

お酒が好きな、可愛いガールフレンド」



「え!?そんなんちゃいますよ。

ただのお客さんですって」



「親しい間柄に見えたけど?」



「いやいや。連絡先も教えてないですし。

なんやしりませんけど、俺をからかいに来るんすよ。ほんまにそれだけです」



「言ったのに。私に構わなくていいって」



「あの……自意識過剰かもしれませんけど……。

もしかして麗子さんそれ…………

ヤキモチ、ですか?」



「………………」



「………………」



「……………………私、臆病なの」



「へ?いきなり?」



「二度と吸いたくないのよ。

あの時のような、薄い空気は」



「………………」



「だからもう、他人を自分の中心に置くのは御免だわ」



「…………なるほど」



「わかったなら——」



「それやったら俺、麗子さんの中心に入れんでもいいですよ」



「………………」



「中心に居れんくても、俺が勝手に麗子さんの周りにいます。絶対に俺から離れることはないって断言します」



「そんなの……いくらでも言えるじゃない」



「でも知ってますよね?俺、諦め悪いんですよ」



「…………こんな面倒な女を選ぶなんて、本当に難儀ね」



「何言うても無駄です。

麗子さんが俺を嫌いにならない限り。

だから今後、麗子さん側が悲しむことはないですよ」



「ふ。頼もしいわね」



「お、珍しく褒められた?

あ、そや。『恋は焦らず』。

今月は"バラライカ"にしましょか。

黄金比カクテルの兄弟っすよ」



「ゆっくりで良いってことね」



「……まあ、俺的には急いで落ちてくれても構わんのですけどね」



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