第12話
「……死んだ?」
娘が父の背中から出てきて、静かになった父に問う。
「ああ。かなりデカくてなかなか死ななかったがな。夕刊を玄関に置きっぱなしにしといてよかったな。1発叩いて地面に落としたら、あとは飛べなさそうにしてたから」
「キ○チョールをすぐに使えばよかったのに。」
「馬鹿お前、あんなデカイのに元気なうちに振りかけてみろ。バタバタ大暴れして余計に大変だったぞ?」
「ヒィッ!想像しただけでキモい……」
「だろ?…ところでネックレスは見つかったのか?」
「うん。見つかったから戻ろうかと思ったときにあいつが侵入してきたからさ…」
「けどお前、そのネックレスのグリーンの部分、何でできてるか知ってるか?」
「分かるよ。タマムシってやつでしょ?世界一美しい虫って言われてる。」
「知ってたのか。……虫嫌いなのに虫のネックレスを大事にするのもなかなか矛盾してるけどな」
「いいのっ!これは彼にもらった物だし……それに……」
娘は暗闇に光る緑のネックレスを優しく手で包み込む。
「こういうキレイな虫は、絶滅しなくてもいいかなって思えてきたの。……でも…こいつみたいな、無駄にデカくてキモいだけの虫は……やっぱり絶滅してほしい。……存在価値がないから。」
玄関のタイルの上で潰れている大きな黒い虫を蔑むように見て、少女は言った。
夏の夜、活発になる虫たちにも、きっと事情があるのでしょう。
短い命を懸命に生き、小さな光にも希望を見つけ、ひたむきに向かっていくその姿勢。
「気持ち悪い」「価値がない」と決めつけているのは、人間の勝手な判断によるものなのではないでしょうか。
何の罪もなく害も与えてこない人たちを外見や能力で差別し、感情的に殺害することは糾弾される世の中です。
しかし…
そんな人間と夏の夜に舞う虫たちには、一体どんな命の差があるというのでしょうか…?
夏は夜こそ暑い!その理由は? @sakusaku16868
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