第11話

「お父さん!助けて!!」


ぎゃあぎゃあと叫びまくる女性は、出てきた男性の後ろに隠れた。



「んー?……ああ、これね。」



するとその男性は俺を見ると、「これ」と冷たく言い放った。



「……あの、突然お邪魔したのはすみません。でも…停電になったときに、ここから光が見えたので…」


「うちで助けるつもりはないよ。さっさとどっか行きな」


「けど……ここから帰ることもままならないので…」


「娘に怖がられてるんだからさー。そんなにしつこくされても困るよ。」


「………でも……」


「…確かにこいつはしつこいな。……オラッ!!」



俺が説明してると、男性は突然俺に向かって大きな何かを振り上げた。






「ぐぁぁぁっっ!!」


暗闇で見えないその武器・・は、俺の体を直撃する。



「ちょっ…なにするっ……ああああっ!」


再び振り降ろされる武器。


2度目は俺の頭に直撃した。


「あーーっ!!」


俺は痛みのあまり、頭を押さえて悶える。


その間も、何度も男性による打撃が繰り返される。



「…なかなか死なねえなこいつ…」



そうは言うが、俺の息はすでに浅い。


脚は千切れ、頭の一部は陥没し、腹からは内臓が出ている。


かつて経験したことのない痛みと苦しみで、俺の意識はだんだんと遠のいていた。



(ああ…あの時…静夏の言う事を聞いていれば…)



辛うじて繋がる思考の中、俺は静夏の忠告を思い出していた。



(確かに俺は、何もしてない。でも……)



俺がギリギリ息をしていることを男性が確認する。



「…これでトドメかなー。もう暴れる余力もないだろうし。」



その言葉と同時に、俺の体には冷たい霧が降りかかった。


瞬時に空気が白くなったと思ったら、最早息をすることすら許されない苦しみが俺を襲う。


ヒリヒリと痺れる体と脈打つ鼓動は、俺の思考回路までもを侵食してきた。






(やっぱり……こいつらからしたら……何もしてなくても……俺らのこと、すぐに殺したくなるんだろうな……)



夜に負けない真っ黒な姿着をまとう俺は、二度と涼しい夜の夏に舞うことなく、そこで一つの命を消した。

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