第14話 領民の危機
「魔王様、お帰りなさい。して、あの領地については何かわかりましたか?」
魔王、アルマオディウスが領地に帰って来るなり、側近である魔族が質問をしてくる。
「あぁ、色々とわかったことがある。その上で話したいことがある。皆を集めてくれないか?」
「皆……ですか? そう仰っても魔族達は自由奔放な方が多いですからね。気が向いたときに襲い、気が向いたときに眠る。魔王様の号令を掛けたとて、どれほどの人数が集まることか……」
「かまわん、それで良いから呼んでくれ!」
「かしこまりました。少々お待ちください」
◇
しばらく待つと魔王の前に十人ほどの魔族が現れた。
「お待たせいたしました。こちらで全員になります」
「いや、ちょっと待て。我は魔族全員を呼べと言ったんだぞ?」
「はい、今の魔王様の号令ではこれだけの人数しか集まらないのですよ」
その言葉を聞いて魔王は思わず愕然と肩を落としていた。
ただ、気を取り直して今集まってくれた魔族達に対して告げる。
「よく集まってくれた。今宵は我よりそなた達に提案がある。心して聞いてくれ」
その言葉を聞いた魔族達がざわつき出すが、それもいつものことなので魔王は更に言葉を続ける。
「今宵集まってもらったのは他でもない。最近話題になっていた強い農民が現れたと言う地についてのことだ。我はその土地に偵察へと赴いた。そこで彼の地がどうしてそこまでの力を手に入れることが出来たのか、その一端を知ることが出来た」
「い、一体それはどんな技法なのでしょうか?」
側にいた魔族が声を上げて聞いてくる。
「実はそこで取り入れていたのは働く方法についてだったのだ。それで我が領地にもそれを取り入れていこうと思う。いかがだろうか?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私たちは魔王様の力に惚れてついてきているだけで働くつもりなんてないですよ!」
「そうだそうだ、第一働くのなんて魔物どもに任せておけばいいじゃないか!」
「我々は勇者や襲いかかってくる敵のために力を蓄えておく方が重要だ!」
魔王の提案を聞いて魔族達は一斉に反対していた。
まさか我が地にいる魔族達がこれほど働かないやつばかりだとは思わなかった。
魔王は思わずため息を吐いていた。
「お前達はまさか戦う以外の仕事があることを知らないのか?」
「……そんなものありませんよ。書類は魔王様が片付けてくれますし」
だから我の仕事がなくならないのか。
むしろ毎日働いても仕事が増えていくわけだ。
我の元には我しか出来ない仕事だけが来ていると思っていたが、全ての仕事が我の元に集まっていては働きづめになっても仕方ない。
これは根本的に仕事の環境を変えてやる必要があるな。
例えば、我が今までしていた仕事を他のやつに割り振るとか……。
ただ、我がこの地にいてはどうしても我に甘えてしまうかもしれない。
それならば我はしばらくの間、彼の地に身を潜めておく方が良いな。
け、決して休みが貰えて働く時間が決まっているあの地が羨ましいわけじゃないぞ。
た、ただ、我は潜入捜査……、そうだ、潜入捜査をするだけだ。
誰に対してかはわからないが魔王は心の中で必死に言い訳をした後に魔族達に残す手紙を書いていった。
◇
そして、翌日。
魔王に仕事を渡しに来た魔族が残された仕事の山と魔王が書いたとみられる手紙を発見して大騒ぎをする。
「ま、魔王様が!? 魔王様が出て行かれた!?」
その手紙にはこのように書かれていた。
『我は少し内密に旅をしてくる。我がいない間の仕事は皆で分担して片付けてくれ』
それを聞いて魔族達は大慌てで魔王を探していたが、そのときすでに魔王はアーレンツ領へ向かって出かけていた後だった。
◇■◇■◇■
ルーが怯えて出て行ってから数日が過ぎた。
彼女の様子がおかしかったのはあの日だけで、次の日からはしっかりと仕事をしてくれていたので俺もルーのことを気に掛けながらも普段と変わらない日常を送っていた。
ただ、ルーが聖女様の可能性がどうしても拭いきれなかったので、それについてはユリウスに相談しに来ていた。
「ルーって子が聖女かもしれないだって?」
「あぁ、それでどうにも教会ともめそうな気配があってな。何か今のうちに打てる対策はあるのか?」
「もちろんルーを教会に返すって答えはないんだよね?」
「あぁ、当然だ。ルーが自分の意思でここに来ている以上俺はそれを尊重する」
「うん、それはわかっていたよ。だから僕もこうやって安心して過ごしているんだからね。でもそうなると二つのことに対処しないといけないね」
「二つ?」
ルーを返さない……ということのほかにしないといけないことがあるのだろうか?
「うん、まず一つ目は当然のことながらルーを返さない。相手はおそらく神官長が出向いてくると思うよ。そして、ライルに色々と難癖を付けてくると思う。それをきっちりと言い負かす必要があるね」
「当然だ。本人が嫌がっていることを無理にさせるなんて絶対にさせたくないからな」
「うん、それならもう一つの問題。おそらく神官長は聖堂騎士を連れてくるよ。これは教会が保有する兵士でかなりの能力を持っている。冒険者で言うならBランク以上の実力者をかなり連れてくると思う。ライルが断った瞬間に武力行使に出てきてもおかしくないね」
「なるほどな。教会に刃向かう相手は殺してしまえってことか。それがいつ襲ってきてもおかしくないってことはエレン達にはあまり遠くへ行ってもらったら困るな」
「うん、しばらくは領地内で待機してもらった方が良いかもしれないね」
そう考えると持久戦になるのはまずいかもしれない。
今、この領地にある収入のほとんど全てがエレンに集約されている。
「まぁ、それほど時間がかかるとは思えないから安心して良いよ。多分、聖女の居場所はすでに教会は掴んでいるはずだから……」
「……本当なのか?」
「うん、だって相手は神に仕えていると自負する集団だよ? そして、いなくなったのはその神の御使いたる聖女。寝る間を惜しんで探しているに決まっているからね」
確かに聖女は教会の象徴。
いなくなったとなると総力を挙げて探しているはずだ。
「まぁ僕からしたらそんな探し方、くそ食らえだけどね。そんな無理して探させた後に、そのままこの領地へと出向いてくるんだよ? どう考えても疲れはピークを越えている。追い返すのは簡単なはずだよ」
「それもそうだな。……いや、それならばちょっと作戦があるんだけど聞いてもらっても良いか?」
「――いや、聞かなくて良いよ。多分ライルならそれが正解だから。でもそんなに一気に人を雇い入れるとライルが大変になるけど……いいんだね?」
「あぁ、どうせ人数は増やしていかないといけないんだ。それにBランク冒険者と同程度の力を持つ相手ならいくらでもしてもらいたいことはあるからな」
直接は話さなかったがユリウスは俺が話そうとしたことを理解して、頷いてくれる。
それを聞いて俺も微笑んでいた。
大賢者のお墨付きをもらった以上これは成功するだろうな。
「ありがとう。聞いてもらって助かった」
「いや、これが僕の仕事だからね。あとはルーの姿を見られるのはライルがそれを話し終えた後……だからね。教会に仕えている相手なんだから聖女の姿を見てしまうと疲れが吹き飛んで説得に失敗する……なんて恐れもあるから」
「それもそうだな。まぁ、ルーは俺の館で働いているからな。よほどのことがない限りその心配はないだろう」
ただ、念には念を入れてしばらくはあまり外を出歩かないように注意だけしておこう。
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