第2話
おまさがこの見番を作ったのはそんな気持ちからだ
一方二階はおまさの私邸てきな物となっている
おまさは置屋に詰めずお座敷がかかるまでここで大好きなタバコをふかしたりして時間を過ごすことが多い
もっともおまさがタバコを吸うと言うのは業界では秘密事項になっている
今も昔もタバコは男の物で女がタバコをふかすのは風当たりが強いのだ
そのおまさの大事な二階の座敷で堂々と寝っ転がってる男がいた
おまさの隠し男か?
誰もがそう思うだろう?
しかしどうやら少し様子が違うようだ
その男のかっこうは羽織に白足袋
そして何よりも際立ってるのは豆本田と呼ばれる 極めて小さな髷である
この格好はそう 幇間の格好である
えっ いいか 太鼓持ちごときが看板芸者の座敷に入り込んで高いびきとはおそれいる
ずーずーしいにもほどがある
気の強いおまさにひきづりだされるのでは
しかしどうやらその心配はなさそうである
なんとおまさは追い出すどころか廊下から部屋の襖を細めに開けて その男の様子を覗きんでいるのだ
その覗き込んでる姿というのがまた傑作で整った鼻がもったいないとでも言いたくなるように小鼻を膨らませ
目はトローンとして焦点がさだまらず
少しでばったおでこはというとあまりに強く襖に押し付けるからひしゃげそうだ
それだけならまだしも問題は尻である
形の良い尻は地面の方を向かず天井の方に勢いよく突き出ようとしている
そして手だ
勢いよく伸びた手は今にも女の大事な部分に突っ込みそうである
まさにその姿は好みの雄を見つけたメス犬
まあ 遠慮がちに言ったとしても風呂屋の女湯を覗くではがめの姿である
この姿をおまさにぞっこんの旦那衆が見た日には百年の恋もさめようと言うほどみっともない姿なのだ
末通女に限りなく近いとまで言われる身持ちの固いおまさをここまで色狂いさせる男
その男の名は伊八と言った
もちろん本名ではない
いわゆる通称だ
通称で通る業界なのだ
と言うか江戸期中期のこの時代
いわゆる享保の時代
この業界でなくても本名を隠して生活している人間はいくらでもいた
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