第2話



 うーん…。


 僕は今、とても悩んでいる。

今回、紅魔の塔で出てきたボス、紅魔龍は『レアボス』と言われていて、普通のボスの2倍ほどの強さを持っていると言われている。

僕たちのチームはSSランクだが、紅魔龍に勝てるほどの実力はないのだ。

だから、今は逃げるのが最善策なのだろうが…。


「むりだ!今ここでこいつに背を向けたら確実に殺されるぞ!」


ライクの言うとうりだ。

ここで逃げた場合、紅魔龍の魔法の一つである『煉獄バーンデッド』によって炭にされるのは確定している。

なら、答えは簡単だ。


「僕がこいつをひきつけておくから!みんなは早く逃げてくれ!」


このパーティで1番弱い僕が囮になった方が、パーティの生還率は格段に上がる。

僕にはこいつを止める手段が一つだけある。

実は僕はCランクだが、魔法のレパートリーと魔力量だけはBランクに匹敵している自信がある。

僕の全力の魔法を数発打てば少しは足止めになるはずだ。


 だけどみんなの言葉は予想外のものだった。


「エレグ1人でひきつける!?馬鹿なこと言ってんじゃないわよ!」


「そうだぞエレグ!俺たちは4人でパーティなんだ!お前がいなかったらパーティではないだろ!」


「うん。エレグが1人で戦うなら私たちも戦う。」


と、僕を1人で戦わせようとしてくれない。


 『ほんとに…。いい仲間を持ったな…。』


ボッチで陰キャな僕にも嫌な顔ひとつせずに話しかけてくれた。

僕は仲間に恵まれていたのだと改めて思ってしまう。


だからこそ、こんなに大切な自分の仲間は死なせたくない!


「わかった。みんなで生きて帰るよ!」


「「おー!」」


 そこからはとても長い戦いだった。

まず僕が炎属性初球魔法の『火球ファイアボール』で紅魔龍の気を逸らす。

そのうちにライクとシアンが攻撃を仕掛け、その2人への紅魔龍の攻撃をアリスがカウンターで返す。

一見すると僕たちの方が勝っているように見えるかもしれないが、紅魔龍の強さの秘訣である鱗の硬さとスキル『再生』のせいで少量しか傷を与えることができない。


 かれこれ1時間ほど経ったところで僕は周囲を見渡す。


『まずい。みんなの体力がもう持たない。』


僕はもともと持久が高かったが、他の3人は違う。

そろそろ切り上げないと確実に誰かがダウンしてしまう。


ここで僕は勝負に出ることにした。


「3人ともこっちに!」


3人を呼び寄せてポケットの中のものを取り出す。『転送石ワープストーン』だ。

流石にこれ以上戦わせるわけにはいかない。なので僕は3人には悪いが3人をダンジョンの入り口に強制転送することにした。


「対象:アリス、シアン、ライク。3名をダンジョン入り口へ強制転送する。」


そう言った瞬間、3人は顔を真っ青にする。


「エレグ!まっt…


「おい!やめr…


「2人は任せて!」


アリスとライクの2人は何かを叫びながら転送されて行ったが、シアンはすぐに状況を察して冷静になれたようで、多分だが僕を安心させようと声をかけてくれた。


 3人を転送したことで紅魔龍と僕は向き合うように立つ。


『魔力量も体力もまだ十分に残っている。』


実は僕には一つ隠していることがある。僕のこの世界での種族は『人間ヒューマン』ではなく『堕落人アビスノイド』である。

いわゆる悪魔の進化系だ。


「どうせ死ぬぐらいなら、最後の最後にお前を殺してから死んでやるよ!」


そう言って僕は力を解放する。


『グギャアァァァァァォォォォォ‼︎‼︎』




 僕と紅魔龍はほぼ同時に動き出したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る