第29話 ダイニングルーム(7)
「とにかく二人とも座りなさい」と達也。
麻衣と伽耶はしぶしぶテーブルに戻った。
「勝則の日記に何が書いてあったのか知らないが、お父さんとお母さんは離婚などしない」と達也。「家族を大事に思うから、こうして一緒に食事をしようと頼んだんだ。」
「離婚なんて考えたこともないって言いたいの?」と麻衣。
「正直に言えば、別居の話は出ていた」と達也。「だが、それはやめにした。」
「いつ気が変わったの?」と麻衣。
「伽耶と沙耶と勝則が滝に飛び込んだ後だ」と達也。「父さんと母さんが間違っていたことに気がついて、考えを変えたんだ。」
「そう」と麻衣。「それは良かったわね。」
「何か気に食わないのか?」と達也。
「勝則がどう思うか考えているのよ」と麻衣。
「何が問題なんだ」と達也。「今のまま暮らせればいいじゃないか。勝則もそう言っていただろう。」
「あの子には、他に仕方がないからよ」と麻衣。
「何が言いたいんだ?」と達也。
「何もないわ」と麻衣。「父さんと母さんが分からないならそれでいい。」
「何か言いたいことがあるのでしょう?」と真知子。
「勝則の気持ちの整理がつかないんじゃないかっていうことよ」と麻衣。
「日記に何か書いてあったの?」と真知子。「お母さんに教えてちょうだい。」
「だから、離婚のことよ」と麻衣。
「日記に何が書いてあったのか知らないが、誤解があるんじゃないのか?」と達也。
「どうかしら」と麻衣。「私たちも、日記を初めて読んだときは勝則の被害妄想だと思ったわ。だから馬鹿にしていた。」
「その内容を教えてくれないかしら」と真知子。「多分、あの子が勘違いしているのよ。」
「日記を初めて読んだのは盗撮騒動が始まってしばらく後のことだったわ」と麻衣。「最初は流し読みをしたわ。意味がよく分からないまま。」
「読みにくいの?」と真知子。
「とにかく長いのよ」と麻衣。「日記なのか創作なのかよくわからない感じで。中二病の文章っぽいと思って面白がって読んでたのよ。」
「それはひどいわ」と伽耶。
「あなたたちだって、あのとき勝則を見下していたでしょ」と麻衣。
「意味が分からなかっただけよ」と伽耶。
「それで何が書いてあったんだ?」と達也。
「事実とも妄想ともつかない私たち家族の話よ。浮気とか離婚とか異母兄弟のことよ。それから工作の図面や説明があったり、ところどころ途切れていたりして、とにかく読みにくいのよ」と麻衣。
「まあ、日記だからな」と達也。
「私たちの悪口も散々書かれていて、すごく腹が立ったわ」と麻衣。
「あなたたち三人のこと?」と真知子。
「ええ、そうよ。伽耶と沙耶と私のこと。」と麻衣。「だから口をきかなかった。」
「それであいつは家出したわけだな」と達也。
「そうよ」と麻衣。
「やっぱり誤解なのよ」と真知子。「あの子に話せばわかってくれるわ。」
「母さん、話はこれからよ」と伽耶。
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