第23話 ダイニングルーム(1)
次の日の朝、青い顔をした達也が麻衣の部屋に来て、話をしたいので伽耶と沙耶をつれてダイニングルームに来てほしいといった。
伽耶を連れて部屋に入ると、顔色の悪い達也と目を赤くした真知子がテーブルに座っていた。
「座りなさい」と達也。「なぜ沙耶は来ないんだ?」
「勝則と一緒にいるからよ」と麻衣。
「いい仲なのか?」と達也。
「勝則が出て行かないように見張ってるのよ」と麻衣。「やっぱり話し合いは無理だわ。」
「待ってくれ」と達也。「冗談だ。」
「次は無いから」と麻衣。
「勝則は本気で出ていく気なのか?」と達也。「あいつは具合が悪いんだろう?」
「ええ、本気よ」と麻衣。「だから伽耶と沙耶がべったり引っ付いてる。二人は冗談でこんなことしないわ。」
「そうなのか」と達也。「真知子から様子を聞いたのだが、少し確認したい。勝則は家出の前、この家でほとんど誰とも話をしていなかった。その期間はどれくらいだったんだ?」
「ひと月ぐらいね」と麻衣。
「そんなにか」と達也。「あいつは生活に不自由なかったのか?」
「なかったわ」と麻衣。「あの子は身の回りのことは自分でできるわ。だから私たちはあまり気にしてなかった。」
「だが、ひと月もしゃべらないなんてひどいだろう」と達也。
「父さんに言われると腹が立つわ」と麻衣。
「まあ、それはそうとして、理由はあいつが生意気だったからか?」と達也。「ちょっとひどいだろう。せっかくお前に懐いてたのに。」
「ええ、まあ」と麻衣。
「姉さんは、兄さんの友達のことで一時期、問い詰めてたわ」と伽耶。
「ええ、勝則が高校でかわいい女の子の友達ができたみたいで、ちょっと気になってたのよ」と麻衣。「それで、ちょっとイライラしてたのもあって……。」
「盗撮事件の時か?」と達也。
「いいえ、それより少し前かしら」と麻衣。「盗撮事件の犯人って言われだしてから、学校で話し相手がいなくなったから、その女の子とも切れてると思うけど。」
「聞いてないわ、その話」と伽耶が怖い顔をした。
「ごめんなさい」と麻衣。
「伽耶と沙耶はその頃なんかあったのか?」と達也。
「特にないわ」と伽耶。「ただ、兄さんがいつもより私たちにしつこく話しかけてくるから、ロリコンの変態って言ったら二度と話しかけてこなかった。」
「本当はもっとひどいことを言ったのでしょ」と麻衣。「勝則の胸をえぐるような。」
「とても後悔してるわ」と伽耶。「兄さんは人付き合いが不器用すぎよ。私たちでさえ勘違いするぐらいだから。」
「勝則が出ていくのも仕方がない気がしてきたよ」と達也。
「ひどいわ」と麻衣。
「お前たちだってひどいだろ」と達也。「そばにいて勝則のことをよく知ってたくせに。」
「勝則が出ていくなら私たちも出ていくわ」と麻衣。
「それは構わんが、一度勝則を一人にしてやったほうがいいんじゃないかと思うけどな」と達也。「あいつには家の中が窮屈すぎたんだろ。」
「今更、何を分かったようなことを言うんですか?」と麻衣が改まった口調で言った。「不愉快だわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます