第14話 山小屋(2)

 しばらく沈黙が続いたのち、麻衣が口を開いた。


「母さんと私は、さっきあなたたちが自殺した滝つぼに献花に行ったのよ」と麻衣。


「本当に死んだと思ったの?」と伽耶。


「ええ」と麻衣。「これでもずいぶん泣いたのよ。」


「死体は上がらなかったはずよ」と沙耶。


「死体は現場に浮いてこないことがあるそうよ」と麻衣。「見つからないうちに下流に流されたりとか、底に引っかかったりとか。」


「潜って調べたんでしょ?」と伽耶。


「そうらしいわ。でも見つからなかった」と麻衣。「巷では神隠しにあったか、妖怪に食べられたんじゃないかって言われてるわ。」


「非科学的だわ」と沙耶。「通夜とか葬式とかは?」


「やってないわ」と麻衣。「父さんが死体を見るまでは信じないって。」


「ところでどうやって逃げたの?」と麻衣。


「酸素ボンベを背負ってたのよ」と伽耶。「しばらく潜ってて、隙を見て陸に上がったの。」


「大したものね」と麻衣。「ところで勝則がどんな方法で施設から逃げたか聞いてる?」


「施設の電源を落として、騒ぎに乗じて柵を越えたそうよ。足首の発信機にはアルミホイルを巻いて電波を遮蔽してる」と沙耶。「それから徹夜で歩いて私たちに会いに来た。」


「あの学校から家まで五十キロ以上あるのよ」と真知子。「歩けるわけないわ。」


「歩くしかしょうがないから、歩いただけよ」と伽耶。「無一文だったし、交通機関の防犯カメラに顔が映ると追われるかもしれないから。」


「勝則は体が弱いのよ」と真知子。


「勝則が弱いと思っているのは母さんだけよ」と麻衣。

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