第13話 山小屋(1)

 家族五人は真知子が運転する車に乗り、キャンプ用の山小屋に行くことにした。自分たちの私有地なので人に話を聞かれる心配がない。


 五人は車を降りて、ログハウスの小屋に入った。まず熱いお茶を入れて勝則に飲ませて寝かせた。それから真知子と麻衣、伽耶、沙耶はテーブルを囲んで座った。


 真知子は伽耶と沙耶の手を取って泣いた。「よかったわ。あなたたち、生きていたのね。」


 伽耶と沙耶はうつむいていた。


「あなたたち、お願いだから帰ってきて。」と真知子。「お父さんもすごく悲しんでいたわ。あなたたちの話を聞くように私が話すから、帰ってきて。」


「父さんを信用できないわ」と伽耶。


「今度のことはかなりこたえているわ」と真知子。「だから話をしてあげて。」


「どうかしら」と沙耶。「父さんは自分が騙されたと知ったら逆上すると思うわ。怒りの矛先はどこに向かうのかしら。兄さんに何をするかわからない。」


「そうね」と麻衣。「私もそう思うわ。」


「あなたたち、お父さんのことを信用してないのね」と真知子。


「だから私たち、逃げているのよ」と伽耶。「命がけで。」


「それなら、まずあなたたち二人だけ戻ってきたらどう?」と真知子。「様子を見てあの子も家に帰すのよ。」


 伽耶と沙耶がそろってうんざりした顔をした。


「兄さんをどこに置いて行けというの?」と沙耶が怖い顔をした。「兄さんを置き去りにしたら、今度こそいなくなるわ。」


「少しの間だけよ」と真知子。「勝則はああ見えて強い子だから、どこででも生きていけるわ。」


「母さんは何も分かってないわ」と伽耶。「私たちが兄さんをそそのかして、ここに連れだしたのよ。」


「なぜそんなことしたの?」と真知子。「施設は大騒ぎだったのよ。」


「兄さんと一緒にいるためよ」と沙耶。「なぜわからないの?」


「なぜそうまでするの?」と真知子。「あなたたち、そんなに仲がよさそうじゃなかったじゃないの。」


「私たちは前から兄さんのことが好きだったわ」と沙耶。「物心ついた時からずっと。」


「そんな風には見えなかったわ」と真知子。


「そうかしら」と伽耶。「私たちのことを何も知らない。だから分からないのよ。」


「お母さんは兄さんとほとんど話してないでしょ」と沙耶。


「それは私が最近仕事が忙しかったからよ」と真知子。「時間がなかったの。」


「勝則はすねまくってるようだけど」と麻衣。「少しかまってあげたほうがいいんじゃないかしら。」


「その分、あなたに懐いてるじゃない」と真知子はすがるような顔をした。「あなたが可愛がってあげてるのでしょ?」


「勝則は最近反抗期で生意気だったのよ」と麻衣。「だからちょっと意地悪してたの。」


「盗撮を疑ってたせいじゃないの?」と真知子。


「母さん、あんな話信じてたの?」と麻衣。「勝則がそんなことするわけないじゃない。」


「あなたたちも知ってたの、あの子が犯人じゃないって?」と真知子。


「もちろんよ」と伽耶。


「じゃあなんで、あなたたちは勝則にあんなつんつんしてたの?」と真知子。


「別件で怒ってたの」と沙耶。


「何があったの?」と真知子が泣きそうな顔をした。「大事なことなんでしょ、教えてちょうだい。」


「双子の魔女ね」と麻衣。


「麻衣姉さんは、偽りの女狐よ」と伽耶。


「何そのあだ名、ぴったりで面白いわね」と真知子。「誰がつけたの?」


「兄さんよ」と沙耶。


「勝則があなたたちのこと、そんなふうに呼んでたの?」と真知子。


「ちがうわ。あの子の日記にそう書いてあったのよ」と麻衣。


「ひどいわ。人の日記を読むなんて」と真知子。「それであの子に文句を言ったの?」


「言うわけないわ」と伽耶。「ちょっとよそよそしくしてただけ。」


「気まずい感じがしばらく続いたら、家出しちゃったのよ」と麻衣。


 四人はしばらく何も言わなかった。

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