第12話 遭遇

 丸一日眠って勝則の体調はかなり回復した。だがまだ微熱が残っている。


「そろそろもっと山奥へ移動しよう」と勝則。


「まだ無理しないほうがいいわ」と沙耶。


「今なら動けるよ」と勝則。「もう少し人気が無いところで休んだほうが安心できるよ。」


 沙耶と伽耶はそれもそうだと思った。荷物をまとめて三人は藪をしばらく進んで、登山道に出た。途中、観光客向けの見晴らし台と駐車場があり、トイレを借りることにした。


 用を済ませてトイレの前で三人がリュックを背負っているところで、「キャア!」という声が背後から聞こえた。振り向くと、すぐ後ろに青い顔をした真知子と麻衣が立っている。二人とも黒い喪服を着ている。


 三人は慌てて逃げようとしたが、敏捷な麻衣が長いリーチで勝則を捕まえて羽交い絞めにした。


「あなたたち、勝則を残して逃げる気?」と麻衣。


「もちろん、勝則兄さんと逃げるわ」と伽耶。


「それは無理よ」と麻衣。「私に勝てると思って?」


「そうかしら?」と沙耶。「ニ対一ですわよ、お姉さま。」


「ニ対一だとしても、一度でも私に勝てたことがあったかしら」と麻衣。「え、ちょっと待ちなさい!勝則、熱があるじゃないの。」


 沙耶と伽耶は、しまったという顔をした。


「どういうことなの?」と麻衣。


「滝つぼに飛び込んだ後、風邪をひいたのよ」と伽耶。「それでさっきまで寝てたの。」


「なぜもっと寝かせておかないのよ!」と麻衣。


「兄さんがもっと人気のないところに移動してから休むっていうから」と沙耶。


「ちょっと待ちなさい!」と真知子。「どういうことなの、これ、どういうことなの?私に説明して!」


「私たち、父さんと母さんから逃げてるのよ」と伽耶。「だから追ってこないで。」


「どれだけ私たちが心配したと思っているのよ!」と真知子が泣き出した。「あなたたちが死んだかと思って、どれだけ悲しんだか……。」


「警察にも父さんにも連絡しないから、どこかで話をしない?」と麻衣。「勝則が苦しそうだから寝かせたほうがいいわよ。」


 沙耶と伽耶は仕方がないという顔をした。

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