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     †


 わたしとサリーが出会ったのは、幸運というか不運みたいなもので。つまりわたしたちは史上最低な場所で、不幸中の幸いみたいな出会い方をした。

 一年くらい前、あれはわたしが大学生になった五月くらいのこと。

 岡崎ハルキって男に、わたしの処女が破り散らかされて。そのままわたしは彼をホテルに捨て置いて帰った。あの忌まわしき日から、一年が経ったころ。


     *


「うちの近所に音響設備が良い店があってさ、そこでずっと九〇年代のUKロックを流してくれるんだよ。けっこう行きつけでさ」

 サークルの新入生歓迎会。

 池袋の飲み屋街の、安い大衆居酒屋の一角で。まだ十九だったわたしにウィスキー・ソーダを飲ませた男。彼はわたしを喫煙所に呼び出し、いつも吸っている赤マルを一つわたしに分けてくれた。思えば、マルボロを吸うのは人生で二回目だった。

 なんでだろうな。ザ・スミスのTシャツを着て、ダボダボのジーンズとコンバースのスニーカー。ポケットにさしたクシャクシャの赤マル吸って、首にかけたヘッドフォンでアートスクールなんか聴いてる。そんな陰鬱なロックンロールの濃縮体みたいな彼に、たぶんわたしは少しだけ惹かれていたんだと思う。

「雨宮さん、暇なら行かない?」

 その言葉がわたし一人だけに向けられていること。それに少しだけ優越感を覚えたんだと思う。気がつくとわたしは、彼の後を追い、歓迎会を抜け出していた。


 別に池袋が初めての街というわけでない。よくひとりで西口のインデペンデント系のミニシアターに行ったし、レコードを探しに行くこともある。大宮から出やすいから、わりによく行っていたほうだと思う。池袋は埼玉の植民地だなんてよく言ったものだ。

 でも、夜中に歩き回ったのは初めてかもしれない。しかも西口のこんな場所を。怖くないだなんて自分に言い聞かせても、自然と身体は震えてくるもので。わたしは先輩のあとに擦り寄るみたいについていった。彼もまんざらでもない調子で。それでわたしたちは、線路沿いにある雑居ビルの二階に吸い込まれていった。

 ちなみにそこが『アリソン』って名前だったんだけど、その由来がスロウダイヴと、マスターの昔の女友達の名前だって知ったのは、それから半年後くらいのことだ。

 薄暗いバーカウンターに腰を下ろして、わたしたちはギネスをパイントで二杯頼んだ。店内にはずっとブラーが爆音で流れてて、わたしはなんだかすごく気分が良かった。隣で先輩がぐしゃぐしゃの赤マルを吸おうたって気にしなかった。

「いいでしょ、ここ」

 って、彼がお通しのピクルスを囓りながらタバコを吸うとき、わたしの左手はひとりでに『ビートルバム』をなぞっていた。


     †

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