第6話
* * *
暗くなる前に、と小走りで来たけれど、着いたころにはもう薄闇が辺りを包んでいた。
さやさやとした葉擦れの音だけが聞こえる空間を見回し、叶香は呟く。
「ここ、が、最後……。あんまり変わってない、気がする……。でも、こんなに狭かったっけ……」
『それ、僕も同じこと思ったなぁ。でも、僕も叶香も成長したから、感じ方も違って当然だよね』
ほとんど無意識に漏れた言葉に肯定を返されて、叶香は目を丸くした。
「え、〈僕も〉……?」
問いかけに応えるように、ほわりとした光が叶香の目の前に現れる。
「……ほた、る……? なん、で……水場でもないし、季節でもないのに」
『……蛍、か。そうか、叶香には、そういうふうに見えるんだ』
「郁……?」
郁が何の話をしているのかわからず、不安が叶香を包む。
そこに、駆け寄ってくる足音があった。
「ンなとこで何してんだこの馬鹿!」
開口一番に罵倒してきたのは、諒だった。
『――来たね』
「……諒……?」
「今何時だと思ってんだ。女一人でこんな人気のないところ来て危ねーだろうが。ガキの頃とは違ぇんだぞ」
心底腹立たし気に、諒は叶香を睨みつけた。かなり人相が悪くなっているが、諒はいつもこんなものなので、怖いとは思わない。ただ、怒っているのはわかるので、叶香はうなだれながらも反論を試みようとした。
「えっ……で、でも……」
「〈でも〉も〈だって〉も聞く気はねぇからな。帰るぞ」
言い切られたけれど、叶香の足は動かない。
その様子を見て、諒は苛立ちまじりに溜息をついた。
「……その電話の相手、〈郁〉だな?」
「……っ」
息を呑む。けれど答えられない。
けれど諒は容赦なく切り込んでくる。
「だんまり決め込んでんじゃねーぞ。〈オカシイ〉のはわかっててここまで来たんだろうが。貸せ」
「あっ……」
諒は叶香の携帯を奪い取った。そのまま耳に当て、叶香にしたように罵倒した。
「ふざけんなよ、この馬鹿が」
『開口一番ご挨拶だね。久々に話す幼馴染にひどくないかな』
「何もひどくねーし、てめーがアホで間抜けで大馬鹿野郎なのは事実だろ」
諒が操作した様子もないのに、スピーカーにしたときのように電話の向こうの声が聞こえる。
そのことを疑問に思う余裕もなく、叶香は携帯を取り返そうと手を伸ばした。
「諒、返して……っ!」
『相変わらず口が悪いなぁ、諒は。叶香にまでそんな調子で悪態ついたらダメだよ。叶香は女の子なんだから』
「ちょっと黙ってろ叶香。……女だろうが男だろうが馬鹿には馬鹿って言うのが俺の流儀なもんでね。っつーか、郁、暢気に喋ってんじゃねぇよてめーは」
叶香の手から逃れながら、諒は郁と話し続ける。
『おしゃべりくらいは楽しませてほしいな。……退屈、なんだよ』
「諒、お願い返して、諒!」
そうして、決定的な言葉を口にした。
「大人しくしてろっつーの。――だったら意識不明のまま中身だけふらふらしてねぇでとっとと体に戻れ〈浮幽霊〉」
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