第二章

(一ー一)


「さーて、作ってもらった冊子持ってかないとなあ」

 どっさりと両手に抱えて、日積は歩きだす。

 生徒たちに手伝ってもらったおかげで、資料作りは間に合った。

 やはり今度、肉まんでもごちそうするかなどと考えて歩いていると、廊下が陰って暗くなる。

 雲間に太陽が隠れたのかと顔をあげると。

「?」

 ぽつんと、廊下の先に人影が立っていた。

 生徒だろうか、よく見えないその人影に声をかける。

「おーい、もう朝のホームルームの時間になるぞー」

 しかし、一向に動く気配がない。

 ただ、ぽつんと、立っている。

 廊下はどんどんと薄暗く、暗く赤くなっていく。そのことに、だんだんと変だなと気づいて足を止めた。すると、人影が歩き出した。

 こちらへ向かって。

 ただ、歩くというよりそれは、ずり、ずり、と引きずったような。

 ゆらゆら揺れながら、こちらへやってくる。

 そういえば、なぜ、人の声が聞こえないのか。

 朝の騒がしい時間にしては、静かすぎると今更ながらに気づく。

 視界がさらに、赤黒い景色に染まる。

 ああ、やはり、おかしい。

「……なんだ? おい、はやく」

「ちょうだい……ちょうだいいい」

「っ?!」

 近くに迫った姿に思わず、息を呑む。

 ぽっかり穴が空いた顔、真っ黒な体。

 後退り、逃げようとしたその時。


 とぷんと、音がした。

 足元から。


 そこで日積の、彼の意識は途切れた。


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