後日談

 トントン拍子に、とはいかないが、私こと並木なみき萌映もえみはこの度めでたく成婚となった。

 相手は結婚相談所がお薦めしてくれた男性で、地道にデートを重ねて恋人になり結婚する運びとなった。

 私が酷い目に遭ったあのお見合いからは3年の月日が経っており、年齢はいよいよ40間近というところだ。


「萌ちゃん、お皿はどれが良い?」

夕飯時、夫が台所から尋ねる。

 彼は料理が得意で、時々こうして振る舞ってくれるのだ。

「これ、お祝いで貰ったの使お」

「オッケー、キラキラしてて可愛いね」

 彩の華やかなパスタにサラダ、付け合わせのポテトは彼のご実家から送られたものだ。


「いただきまーす」

「いただきます」

「美味しい、我ながら天才」

「天才天才♪」

 新婚ということを抜きにしても、私たちはノリが軽いというかポップである。それはきっと、彼が私より8つも年下なことが関係している。

「萌ちゃん、美味しい?」

「うん、最高」

「ふふ、良かった」

「……」

 彼は食べ方が豪快だけど、私はそれを決して不愉快には感じない。口の中は見えないし、咀嚼音なんてもちろん聞こえない。米粒は必ず残さず食べてくれるし、多めに作ってストックをしてくれるので翌日のご飯にも役立っている。

「どしたの?もうお腹いっぱい?」

「ううん、貴方と結婚して良かったなって」

「ええ~照れる~、褒めてくれたからポテトひとつあげる」

「ありがと、ふふ」


 懐かしのソノダさんとのお見合いの後、私はどうしてもマナーが気になってしまいしばらく食事を伴うデートが出来なかった。そもそも、そこまで重要視するポイントではなかったのに、あの一件から食事マナーは相手を見極める最重要課題となってしまった。


 夫は外食でもたっぷり食べる人だが、こちらの皿の減り具合を見ながら同時に「ごちそうさま」を言えるよう気遣える良い男だ。

 熱いものの時は「気を付けてね」、遅くても「焦らずしっかり噛んで食べてね」とニコニコ私を見つめていた。


 ソノダさんだって、注意すれば直ったと思う。でも私がその指摘役になったから私は冷めてしまった訳で。

 私より早く誰かが彼の食事マナーを正してくれていれば…なんて、今さらなことを直後は何度も考えた。

 つくづく、出逢いはタイミングだよなぁと向かいの夫を穏やかな気持ちで見つめる。


「美味しいね、手前味噌だけど」

 同じペースで同じご飯を食べる、気持ち良く「ごちそうさま」を言える。

「…貴方と食べると何でも美味しいよ」

 私は絶対に、掴んだこの幸せを手放さない。


 食後のデザートまで、それが済んでからも…私たちの睦まじい時間は終わらない。




おわり

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