後日談

『明日さ、大事な話があるから…キレイにして来てよ』

デートを明日に控えた夜、彼氏は電話口でそうお願いする。


「へ?」

『いや、いつもキレイなんだけど、写真とか撮るかもしれないし。一生残るだろうから』

「うん?」

 分かるような期待し過ぎるのも怖いような、むず痒い気持ちがぞわぞわ迫る。


 彼とは交際ちょうど1年、イチャイチャと言うよりは少し落ち着いた付き合いだ。

 私は元カレから受けたサプライズプロポーズが若干トラウマになっており、その後は恋愛への意欲を失ってしまった。

 そんな折に会社の同僚が彼を紹介してくれて、気が合って話が合ってトントン拍子に交際まで発展したのだ。


 私は普段から「サプライズって苦手なんだよね」とは伝えており、彼も彼で正直なものだからその手のドッキリが出来ないそうだ。

 誤魔化し方が下手だから嘘もつけないし、人が良いから騙すことも出来ない。


 彼はきっと、明日のデートでプロポーズをしてくれる。急に言って困らないように、事前の連絡をしてくれている訳だ。普段着で来ないように、手を抜いた化粧で来ないように。

 それは彼の都合ではなく、後で私が落胆するといけないからだ。

「(好きだなぁ、こういうところ)」


 電話の向こうの彼はゲフンゲフンと咳を何度もして、

『あの、ぷ、プロポーズ…するから、夜景の見えるレストランで、だから記念撮影しても大丈夫なように、お洒落して来て欲しい…さ、察してよ…全部言っちゃったじゃん…』

と言い終わったらため息をつく。


 私からの答えも分かってるんじゃないの、でもそこはドキドキしてもらおうか。


「…楽しみにしてる」

そう返して、明日の幸せを噛み締める私だった。




おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る