初恋

ふわぁー。俺はゴルゴン学院の寮、3階の自室でグーっと伸びをする。毎朝5時に起きて王都を二周。これが在学中の朝の特訓だ。冬の朝というのは清々しいもので澄んだ空気が肺に染み渡る感覚がこの何とも言えない気持ちよさが癖になる。レストランの店主、鍛冶屋のおじさん、そんな人々とあいさつの言葉を交わしながら、王都を走る。朝がもたらしてくれる人とのコミュニケーションの時間はとても楽しい。こんな毎日がいつまでも続けばいいのに、そう思う。今日から中等3年としての学生生活が始まる。彼女を作りたい。できれば2,3人。そんなことを考えながら走り終えた俺は寮に戻り食堂で朝ご飯を食べる。食べ終えたら自室に戻り、制服に着替える。


 着替え終えたら登校する。前に座席表が貼ってあったのでそれを見て座る。一番左端の前から4番目の席で、隣はオリビアという飛び級生だ。彼女は1学年飛び級しているから、俺よりも一年先輩ということになる。なんやかんやで授業時間になる。


 授業は1から6限まであり、1から3は魔法、4から6は武術といった感じだ。3限目と4限目の間に1時間休憩があり、その時間で寮に戻り食堂で食事をとってからまた戻ってくるらしい。ちなみに俺は飛び級生なので、学費、食費免除の特待生だ。実質払うのは寮代だけとなる。


 魔法科は試験監督だったユーリ先生、武術は元Sランク冒険者で現校長、拳鬼のドラファが受け持ってくれるらしい。魔法は基本属性の火、水、木、土、上位属性の氷、雷、毒、特異属性の聖、邪、の計9つの属性を学んでいくらしい。俺は、聖と邪以外はマスターしているので、授業を聞く必要はない。


 隣のオリビアを見つめる。すっげえ美人。やばい、以外の単語が思いつかないレベルの美人。白いが白過ぎない肌に筋の通った綺麗な鼻。ぱっちり二重の目にきれいな唇。細長い指にきれいな爪。彼女は触ったら溶けてしまいそうな、しかし、どこか妖艶で危うさを感じさせるような、なぜか庇護欲を掻き立てられるようなそんな存在だった。つまるところ、俺は、オリビアに一目ぼれしたってことだ。学校の授業は隣のオリビアのことしか考えられなくなった。机をくっつけて魔法の理論について4人で話す班活動では、活発だけれどどこか抜けてる彼女を見て胸がはちきれそうになった。後で見返すために前のめりになってノートに話した内容をまとめる彼女の長い髪の毛の匂いをかごうと自然と俺も前のめりになっていた。甘い、甘い匂いがした。その日は一日中上の空だった。


 そこから僕は変わっていった。努力する動機も強くなりたい理由も、彼女を守るためだった。俺という一人称もやめ、僕に変えた。彼女に甘えられるようにするためだった。僕はもともと美形ではあったのだと思う。でも、異性を意識したことがなかったから、どことなく粗暴な感じが抜け切れていなかった。彼女を見て変わった。2週間に1回は美容院に通い自分なりに美容に気を使った。率先して人を助けるようになった。中等部3年が終わりに近づいていくにつれて俺と彼女の中は深まっていった。「オリビア」「ジャン」と呼び合う程度には。この時俺はやっと気づいた。時間とはかけがえのないもの。巻き戻すことはできない。と同時に気づく。俺はなんてヘタレだったんだと。なぜ1年も隣にいて彼女に、オリビアにこの気持ちすら伝えられなかったのかと。俺は決めた。今日、この思いを伝えようと、そう誓った。「オリビア、僕は君のことが好きだ。付き合ってくれないか?」

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