初めての受験

 野草に降りた霜が地面に小さな水たまりを作り始めたとき俺は目を覚ました。寝ぼけ眼で歯を磨き顔を洗う。だんだんと意識が覚醒してくる。今日がゴルゴン英雄学院の入学試験日だ。


 英雄学院は、10歳からの六年間、中等1年、中等2年、中等3年、高等1年、高等2年、高等3年と学年が割り振られ、飛び級制度もある学校だ。全寮制で、校舎に向かって東が男子寮、西が女子寮となっている。後者はそれぞれ二階のテラスからそれぞれの寮の3階へとつながっている。男子寮、女子寮ともに最低学年が1階、最高学年が6階と学年が上がるにつれて寮の階も対応して上がっていく仕組みである。校舎も北と南で分かれており隣接している北側が中学棟、南側が高校棟となっている。毎年1000人近くの人間が受けにきて入学できるのは180人。高等からの入学はなく、チャンスは1回きりである。俺の出席番号は、978番なので、高校棟にでテストを受けることになる。テストは実技のみで、各学年の階の突き当りにある訓練場というところでテストを受けるらしい。


 テストの説明は簡単なものだった。中はミスリルの藁人形に魔法を放ち威力、練度を測る。これが一つ目。二つ目は実際の教師との手合わせ。各100点満点で上位者から順に1組、2組、3組、4組、と分けられるらしい。そのクラスの入試結果上位者2名はクラス代表、副クラス代表となり月に一度の評議会に出席せねばならないらしい。




 「テストはじめ!」の掛け声とともに俺は磨き上げてきたすべてを出し尽くす。まずは魔法のテストからだ。「いけっ。毒竜」まがまがしい色の毒がミスリルを侵蝕し溶かす。その光景は惨憺たるものだった。テスト監督の魔法科教師ユーリはその10歳の少年の才能に、才能に隠されざる努力に畏怖の念を抱く。「あの練度、あの魔力、完成した創造魔法、どれをとっても一級品だ。でも本当にすごいのは彼はこの境地に至るまでにどれだけの努力をしたのか、それが計り知れないという点だろう。」彼は自らの担当する中等3年でぜひとも彼を指導したいと思った。




 「テストはじめ!」の掛け声とともに二つ目の試験が始まる。教師との手合わせ。それは、俺にとって願ってもないものだった。「お願いします。」「かかってこい、978番」Sランク冒険者のガノンさんが言った。何でもありの真剣勝負。「ガキン」俺は短剣を使う。ガノンさんは大剣。筋骨隆々のガノンさんの気迫に短剣もろともおしこまれそうになる。足の下から岩刃ストーンエッジで攻撃する。ガノンさんが後ろに飛ぶと同時に、そのまま敏捷を生かして突っ込む。肉薄して俺はガノンさんの首元に本気で刃をふるう。それを大剣で受け止められ押し返され、バランスを崩した。と見せかけながら追い打ちをかけてきたガノンさんを、魔法で片手剣を作りそれを支点に右足で回し蹴りを放ち吹っ飛ばす。これには、さしものガノンさんも驚き受け身をとれぬまま吹っ飛ばされる。そのまま、壁に突っ込んだ。追い打ちをかけようとすると、そこで試験終了のブザーが鳴る。「ありがとうございました。」そういうとガノンさんは、「お前強いな。鍛錬をした強さだ。お前はまだまだ強くなる。ここでたくさん学べ。」そう言い残してガノンさんは去っていった。




 〈4日後〉


 「受験番号987番ジャッジを本学院中等3年として認める。」という趣旨の内容の手紙がゴルゴン英雄学院から送られてきた。俺はうれしさのあまり小躍りしそうになった。自分の努力が認められるというのはうれしいものだ。だが、中等3年というのが引っ掛かった。ふつう一学年飛び級あるかないかなのになぜ二学年も?と思ったのだ。俺は難しいことは考えず、今回の受験生の中で一番努力したのが俺だったのだろうという結論に至った。同時に、もっと俺は努力してさらなる高みを目指そうという向上心にもつながった。この学園生活を謳歌したいものだ。

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