第2話
2「ザイカと出会う」
首都シンアルにほど近い地方都市ゴフェルに向かうには深い森を通らねばならない。タラカーングループと一緒に狩場に来た時はパウークによる魔除けが効いていた。魔除けはモンスターに対する忌避剤のような効能を発揮する。
全力で駆け抜けても半刻はかかる。モンスターには人を襲うモンスターと襲わないモンスターがいる。人を襲わないモンスターを僕はアーク・モンスターと呼んている。ただその違いが分かるスキルはあっても襲われる時は一瞬だ。
戦闘能力は低くても鍛錬を欠かした事はない。周囲に気を配りつつ全力で駆け抜ける。
もうすぐ森を抜けるという所で
小さな叫び声が聞こえた。女の子の声だ。
方向転換して声のする方へと向かう。
鉤爪を持ったネコ科のモンスターが咆哮を上げている。
その前に女の子が座り込んでいた。
『君はお腹が空いているのか?』
心の声を投げかけた。アーク・モンスターが間違って人を襲う事もあるからだ。
返事はない。
「やはりな」腰に刺した短刀を構える。どう考えてもモンスターの懐に届きそうもない。
だがとにかく女の子は救わないと。
「こっちを向け!」僕はそう叫んで短刀をモンスターの背中に刺した。
刃は通らず不機嫌な眼差しのモンスターが僕の方へと向き直った。
鉤爪が弧を描いて斜め上から迫ってくる。
これは死んだか、と思った。
次の瞬間、モンスターの咆哮が聞こえた。それは威嚇よりも嘆きに近い声だった。
目の前に僕よりも背の低い女の子の背中が見えた。
構えた大鎌がモンスターの鉤爪を切り裂いていた。
「え?」
「今! 懐に飛び込んで臍に刺す! 弱点は臍だから」
女の子に指示されるまま僕は動いた。体毛があって臍がどこにあるが分からない。なので適当にあたりを付けて刺した。
モンスターの動きが止まる。そしてゆっくりと横様に倒れた。
女の子の方へと振り返る。大鎌を二、三度体の周りに振り回すとどういう仕組みか刃と取手が折り畳まれて背中の鞘に収納した。
「凄い」思わず称賛してしまった。まるで大道芸だったからだ。
「練習した!」女の子は自慢げに言った。
そうなのか。
が、体の周りを旋回させた時に大きめの枝が切れたのか女の子の頭に落ちた。
「痛っ!」そのまま女の子は頭を抱えてうずくまる。
僕は背負った鞄から湿らせた布を取り出し彼女の頭に置いた。
「鎮痛剤の薬草の汁が染み込ませてある。しばらく頭にあてておいて」
「本当だ。痛みがひいてきた。‥‥でも」そう言って彼女は横様に倒れた。「お腹が空いて死にそう」
彼女の顔を見ると驚くほどの美少女だった。
「僕の名はアポス。助けてくれてありがとう」
そう言って僕は携帯食料である干し肉を彼女に手渡した。
彼女は干し肉を手に取ると夢中でむさぼり食った。
そして腹を満たしてご満悦になったのか彼女は手を差し伸べて言った。
「助けてくれたのはアポスの方だ。そんな人は今まで誰もいなかった」ザイカは頬を赤らめて言った。「私はザイカ。天罰執行者だ」
僕は一瞬で青ざめる。
「あああ、嘘、嘘。何でもない。忘れてください。忘れろ!」
今度はザイカが青ざめる。そして背中の大鎌を構えて僕に向けた。
「大丈夫。僕は誰にも言わないよ。それにその役職を知っている人はこの世にはほとんどいない」
天罰執行者ーー。それは一般には知られていない種族だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます