スキル「霊能力」でハーレムへ。勇者パーティーを追放された僕は罪人をモンスターに変える少女と出会う。

長沢紅音

第1話

1「アポスとコーシカ」


「うるさいんだよ」勇者・タラカーンは荒い口調で言った。「モンスターはモンスターだ。戯言はよせ」


「彼は誰も殺さない。殺したくないと言っている。たまたま故郷の村に立ち寄っただけだよ」僕は瀕死の熊の化け物の声を聞きながら言った。


「これで何度目だ? いちいち難癖つけられたら狩りも出来ない。モンスターに心なんて無い」前衛の大剣使い・ムナガノーシカが溜息まじりに言う。「俺たちの足を引っ張って何がしたいんだ? 誰かに雇われているのか?」


「そんなつもりはないよ。僕はただ」


「うっざ。魔法も使えない、戦闘力もない荷物持ちがしゃしゃって来ないで。何が霊能者よ、そんなスキル聞いたことない」後衛の魔術師・ズミヤは杖を僕の鼻先に向けて言い放つ。「こういうタイプ、大っ嫌い!」


「私も戦闘は出来ないけれど、そのぶん皆の役には立つつもりだよ。何で邪魔をするの?」治癒士・パウークは俯きつつ小声で言った。


 彼女だけは僕の味方かと思っていた。


「総意を告げる。お前、出ていけ。ホラ吹きの役立たず!」


 タラカーンの言葉に僕は数少ない自分の荷物を手に立ち去る意外になかった。


『いいよ、君は悪くない』と絶命間近のモンスターの声が聞こえた。『同情してくれてありがとう。もし可能なら村のパン屋の娘にアルケは死んだと伝えて欲しい。多分行方不明扱いになっているから』


『必ず伝える』声にならない言葉を発して僕は狩場を後にした。


「今まで邪魔にしてくれた礼は必ずするから、覚悟しておけよ!」タラカーンは僕の背中に向けて叫んだ。


 僕はこれまで罪の無いモンスターを庇い続けてきた。

 最初は皆に気づかれないように逃す算段を巡らせていたが、確実性がないので結局タラカーン達に進言するしかなかった。

 もちろん悪意のあるモンスターもいる。そういう場合は口を出さない。

 だが大半はただそこにいるだけで狩られた。モンスターの死体は武器の素材としての価値があったからだ。


『また嫌われたね』と僕の右斜め上に浮いている少女・コーシカは言った。『何度目だろうね。でもお礼って何だろう? ご飯でも奢ってくれるのかな?』


 コーシカは世間知らずのまま死んで幽霊になった。時折文脈を理解できない発言をする。


『まあ私だけは嫌わないでいてあげる! 感謝しなさい!』コーシカは薄い胸板を叩いてお墨付きをくれた。


『幽霊に好かれてもな』


『何よ! 贅沢言わないで!』コーシカは両手を振り回して僕に殴りかかるがもちろん幽霊なのでその拳は素通りする。


「誰もモンスターの素性を知らない」僕は帰り道を歩きながら呟いた。「コーシカのように幽霊になる人もいれば死んでモンスターになってしまう人がいる。なぜこの事を誰も知らないんだ」


『そりゃあ私やモンスターの声が聞こえるのがアポスのスキルだから仕方ないよ』


「それにしても他に僕と同じスキルを持つ人がいてもいいじゃないか」僕は思わず肉声で答えてしまった。コーシカには肉声も心の声も聞こえる。しかし心の声で伝えるのがコーシカに対する礼儀のような気がする。それをつい忘れてしまった。


「それだけアポスが特別だって事だよ」

 コーシカは肉声を発した。懸命に出したせいか気持ちグッタリしている。僕の慰める為に無理をして肉声を発したのだ。幽霊でも肉声を発する事はできる。ただとても体力を使うらしい。


『ごめん。ありがとう』


 コーシカはニコッと笑ってから『少し休ませて』と言って僕の体の中に入った。幽霊は人の体の中に入って剥き出しの魂に養分を蓄える。これくらいならお安いものだった。


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