第3話

3「天罰執行者」


「天罰執行者」について知る者は少ない。僕が知り得たのは偶然によるところが大きい。


「なななななな、何故知っている⁉︎ 私喋ったっけ? 喋った! そうだ、初めて戦ったら言おうって決めていたんだ! 間違っちゃった! だって格好良いって思っちゃったんだもん!」


 ザイカはおそらく大切であろう大鎌を取り落として頭を抱えた。不思議な事に大鎌は地面に落ちると同時に消えて、その柄がザイカの背中に見えた。つまりザイカしかあの大鎌は使えないのだろう。


「大丈夫、たまたま僕も知っていたから‥‥君から聞かなくても同じ事だよ」


「そんなわけない! 『天罰執行者について知る者はすなわち死者だけだ』って習ったもん!」 


 ああ、なるほどと思った。

「だからさ、僕のスキルは『死者との会話』だからだよ。そして人間からモンスターになった者とも会話できる」 


「え‥‥?」


 泣きべそに近い表情から一転してザイカの顔には驚愕が浮かんでいた。


「そんなわけ無い。聞いたこと無い。それが出来たらこの世界は一変する」


「今のところ世界は一変はしていないね。僕が勇者パーティーから追放されるくらいで済んでいるよ」


「追放‥‥、私も十字党から追い出された」


「そうか、じゃあ仲間だね!」


 十字党なる言葉はもしかしたら天罰執行者の団体の名称だろうか。そんな事を考えているとお腹にザイカの頭があった。僕の体にしがみ付いた手が震えている。


「仲間‥‥そんな事言ってくれた人初めて。みんな、『ザイカは邪魔』とか『無能ザイカ』って言っていたから」


 不意に僕の顔から水滴が溢れザイカの髪に落ちた。


 顔を上げたザイカが不思議そうに僕を見上げた。「アポスも苦しかったの?」


 そうか、僕も苦しかったのか。ザイカの言葉で初めて気付かされた。コーシカのおかげで寂しさは紛れていたけれど。


『ちょっと待って! 何が起きているの!』コーシカが僕の体から飛び出して叫んだ。


『あ、いやこれはつまり』


 僕は何故か弁明を始める。


『ちょっと顔が良いからってすぐに村娘をたぶらかすのか良くないぞ!』


「いつ僕がたぶらかした! たまたま告白された事はあったけれどタラカーン達に邪魔されたじゃないか!」


「たぶらかされた? 邪魔?」ザイカはうっかり肉声で喋った僕の言葉を理解しようと頭を捻った。

『え‥‥嘘』コーシカは黙り込んでザイカの顔をまじまじと見ている。


『彼女はザイカ。モンスターに襲われたところを助けてもらった』


『そうなんだ。へえ』心ここに在らずという塩梅でコーシカは答えた。


「すまない。今僕に憑いている幽霊と話していたんだ」と僕はザイカに向けて弁明した。


「‥‥幽霊がここにいるの?」


「そうだね」


 先程まで僕に抱きついていたザイカは脱兎の如く逃げ出した。


「ザイカ! どうしたんだ!」


「私、オバケは無理!」


 森の出口は目と鼻の先にある。僕はザイカを追って森を出た。

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