第2話 オーダーメイド・ビークル②

「ごきげんよう」

 館長室(というらしいです)の扉を開けたとたん、声をかけられました。

「私がこの、ふしぎアイテム博物館の館長、宝野たからのヤカタよ」

 どこまでも深い黒髪。

 どこまでも透き通った肌。

 大きな、きれいな、きらびやかな瞳。

 館長さんは、お姫さまみたいな美人さんです。

 こんなにキレイな人を、わたしは人生ではじめて見ました。

 でも。

 キレイ……だけど、少しこわいな。

 失礼かもしれないけど、そう思ってしまいます。

 なんでだろう? わからない。

 でも、キレイだけじゃないって感覚は、たぶんまちがってない。

「さあ、座って」

 館長さんに言われて、わたしはソファーに座ります。

 フカフカのソファーは座った瞬間、ずん、とお尻が沈みました。

「あの、わたし、お家に帰れますか?」

 自己紹介をした後、まずは、これを聞きます。

「わたし、迷子になっちゃって、お姉ちゃんのいる家に、帰れなくなっちゃって、そしたらここにたどり着いて……」

「もちろんよ」

 館長さんはそう言ってほほえみ、わたしはドキドキしました。

 ドキドキしたのはキレイだから。でも、それだけじゃない。

 キレイ以外の〝なにか〟がそのほほえみにはありました。

「あなたはお家に帰れるわ。私のアイテムを使って」

「……あの、館長さん、アイテムって?」

 ずっと聞きたかったことを聞きます。

「宝物よ」

 館長さんは答えました。

「私の、大切な、不思議で不思議な宝物。この博物館は、私の宝箱みたいなものね。あなたにも、そういうものがあるんじゃないかしら? 大切なものを入れた箱」

 ある。あるけど、こんなに大きな宝箱なんて聞いたことも見たこともない。 

「さて、香さん。あなたの願いは〝家に帰ること〟だったわね?」

「あ、はい、そうです」

 館長さんの大きな瞳に見つめられると、緊張します。

「そうね、とっておきのアイテムがあるわ――メイ?」

「りょーかいっ」

 そう言うと、メイちゃんは立ち上がり、部屋を出ていきます。

 もどって来たときにメイちゃんが手に持っていたのは、銀色の大きな玉でした。

 なんだろう、パチンコ玉をサッカーボールくらいまで大きくしたような玉。

「オーダーメイド・ビークルよ」と館長さん。

「お、おーだ……?」

「自由自在に形を変える乗り物。自由自在に、性能を変える乗り物。それがオーダーメイド・ビークル」

「の、乗り物……っ!?」

 信じられません、だって、ただの玉ですもん――と思うべきなのでしょう。

 でも、わたしは、館長さんの説明を信じました。

 その、銀色の玉からも、不思議なオーラとしか言い様がない〝なにか〟が出ていたからです。

「さあ、どうぞ。香さん、あなたにオーダーメイド・ビークルを貸してあげるわ」

 わたしは館長さんからオーダーメ……えっと、オーダーメイド……ビークル?を受け取りました。

 重い――のかと思ったのですが、意外と軽くてビックリしました。

「このオーダーメイド・ビークルが、あなたを家まで運んでくれるわ。しかも、あなたが望むような形で」

「あの、館長さん」

「なにかしら?」

「どうして館長さんは、わたしに、アイテムを貸してくれるのですか?」

「簡単なことよ。アイテムの力を望んでいる人に、アイテムを使ってほしい、ただそれだけなの」

 館長さんの白い頬は、うっすらと赤みを帯びていました。

「私の愛するアイテムを、活躍させてほしいの。アイテムは使うためにあるもの、飾っておくだけなんてもったいないでしょう?」

 館長さんの大きな目は、うっとりとオーダーメイド・ビークルを眺めていました。

 まるで、恋をしているような。

「あなたがオーダーメイド・ビークルを使ってみた感想を、その成果を、いまから楽しみにしているわ」

 館長さんはほほえみます。

 やっぱり、美しくてドキドキ。

 でも、やっぱり、美しさだけじゃない〝なにか〟があって、その〝なにか〟のせいでドキドキもするのでした。

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