ふしぎアイテム博物館―another―

星奈さき

第1話 オーダーメイド・ビークル①

 わたし――米山香よねやまかおりは迷子になってしまいました。

 家までの帰り道が、わかりません。

 歩き疲れてしまったわたしは、公園のベンチに座ります。

 どうして? どうして? どうして?

 頭の中はハテナでいっぱいです。

 どうして迷子になっちゃったんだろう。

 学校から家に帰る、ただそれだけなのに。

 いつもしていたことなのに。

 それなのに、帰り道がわからなくなってしまうなんて。

 夕焼けの真っ赤な空に、紫が交じりはじめます。

 どうしよう。どうしよう。

 もうすぐ暗くなる、夜になる、そしたら、わたしは…………ん?

「えっ」

 空に向けていた視線を前にもどすと、目の前になにかがありました。

 扉です。

 大きな、木で作られた扉が、公園の砂場のとなりにあったのです。

 疲れていたのですけど、さすがに無視できません。

 おしゃれな、外国のお屋敷にでもありそうな扉のもとに、わたしは近づいてみました。

「ええっ???」

 わたしは、びっくりしました。

 だって、扉の前に立ったとたん、扉が勝手に開いたからです。

 でも、それだけなら、声に出しておどろきはしません。そこまで子どもじゃないのです。

 声を出してしまったのは、扉の先が、長い通路になっていたから。

 先が見えないほど長い通路に。

 頭はハテナでいっぱい。

 ここは公園。ここは外。

 なのに、扉の中は通路がつづいてる。

 なぜ? なぜ? なぜ?

 怪しい。怪しい。怪しい。

 ……でも。

 わたしは、通路の中に足を踏み入れました。 

 知らない建物の中に入っちゃいけませんと、お母さんや先生から言われているのに。

 なぜだろう?

 こわいな。でも、ほんの少し、わくわく。

 そんな、感じ。

 この通路の先になにがあるのか、たしかめたくなってしまったんです。

 ……。

 …………。

 ……………………ふう。

 どれくらい、歩いたかな。

 足が痛くなってきたころ、ようやくたどり着いたのは、それはそれは大きな部屋でした。

 その部屋には、ガラスのケースがたくさんあります。

 そして、そのガラスケースの中には、いろんなモノが入っていました。

 わたしの身長よりもおっきなトランプ。翼の生えた猫の置物。葉っぱでできた扇。鋼鉄のシルクハット。泥まみれの警察手帳。サメのようなギザギザの入れ歯――その他もろもろ。

 なに、これ?

 なんだか、見てるとドキドキする。

 奇妙なモノたちは、不思議な存在感を放っています。

「あれ?」

 よく見たら、ガラスケースが置かれた台座には、プレートが備え付けられていて、そこには文字が刻まれていました。

 

【人魚の卵】

 お湯に入れると人魚が孵る卵。


【知恵のワーム】

 質問すれば、なんでも教えてくれる虫。ただし、質問は一人三つまで。


【吸血キー】

 持ち主の血を勝手に吸いとる鍵。


 人魚、なんでも教えてくれる虫、吸血する鍵。

 ありえない。そう思うべきなのに。

 プレートに書いてあった文章を、わたしは『ホントだ!』って思いました。

 信じられない内容なのに、なんでか、直感的にそう思ったんです。

 ……さて。

 あらためて、ここはなに? このガラスケースの中のモノは、いったい、なんなんの?


「ようこそ」


 突然の声にびっくりして、飛び上がりそうになりました。

 ふり向くと、女の子が立っています。

 えっと、何年生くらいかな? 四年生か、五年生くらい?

「珍しいお客さんだね」

 女の子はニッコリ笑います。ああこの子、絶対良い子なんだろうなって自然と思ってしまう笑みです。

「さてさて。ようこそ、ふしぎアイテム博物館ミュージアムへ」

 ふしぎ、アイテム?

「わたしの名前はメイ。この博物館の館長――の助手をしているよ」

 博物館とか助手とかアイテムとか、よくわからない。

 でも、あいさつをされたら、あいさつしよう、わたしはそう思いました。

「あの、わたし、米山香、です。わたし、学校から帰ろうとしたら、えっと、その迷子になっちゃって、それで、扉が目の前にあったから入っちゃって……」

「えっ」

 なぜか、メイちゃんはびっくりした顔になりました。

「どうしたんですか?」

「ううん。なんでもないよっ」

 気を取り直すかのように、もう一度笑って見せるメイちゃん。

「迷子は……うん、大変だよね。いつだって、だれだって」

「はあ」

「それより香――ちゃん、なにか気になったアイテムはない?」

「気になった、ですか?」

「うんうん。なにかこう、このアイテムほしい!とか、こんなにアイテムがあればなぁ~とか、思わなかった?」

 わたしはしばらく考えます。

「あの、とくに、ないかも、です」

 おもしろい、おそろしい、不思議で不気味なアイテムはたくさんあって、それはすごいと思うのだけど、正直ほしいとは思わなかったんです。

「わたし、それより、お家に帰りたくて」

 やさしいお姉ちゃんのまつ家に。

「うんうん。それが、きみの願いなんだね」

 え? 願い?

「それはさ、きみの立派な願いだと思うな。だから、行こっか」

 どこに?

「ヤカタさまのとこ」

 ヤカタ、さま。

「この博物館の館長、宝野ヤカタさまのところへ。きみの願いが、きっと叶うから」

 わたしは、自然とうなずいていました。

 メイちゃんの温かい雰囲気のせいでしょうか。この人はウソをついていないとわかったんです。

「それじゃあ行こっか。……あ、大丈夫? そんなに遠くないんだけど、疲れてない? まだ、歩けるかな?」

「はい」

 と、わたしはうなずいたのを見て、メイちゃんも安心したようにうなずきます。

 こうして、わたしとメイちゃんは、博物館の奥へ奥へと進みました。

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