夕暮れが映した夢幻

@wabisabi_wasabi

第1話

夕暮れが映した夢幻



さな

ゆうか

ひなた

りく



「明日は絶対負けない!明日こそ勝つ!!」

「今月何回目?半分ぐらいお前じゃね?」

「昨日もだったもんね〜」

「明日はスタバかミスドにしね?」


高校2年生の4人は授業を終えて帰路についていた


明るいムードメーカーの さな

話上手で4人のリーダー的存在の ひなた

マイペースで優しくて聞き上手な ゆうか

頭が良くてバラバラの意見を纏めてくれる りく


4人は幼馴染で小さい頃からずっと一緒だった


放課後にカラオケに行ったり、遊んでそのまま夜ご飯を食べたりして青春を謳歌する4人


最近はコンビニで肉まんやお菓子等をジャンケンで負けた人が奢るというゲームをしていた

初めの会話から、ジャンケンに負けたのはさなだろう

唇を尖らせ財布の中身とにらめっこをしていた


17時のチャイムが鳴り響く頃、日はだいぶ傾いていた


「スタバもミスドもいい値段するからPayPayチャージしとく!また明日ね!」


横断歩道に差し掛かり、道を別れるさな

信号を待つさなとひなたの間に


「おー、気ぃつけろよ、金にもなー!」

「あんたいつも一言余計なのよ!ひな!」


と、小気味よい会話もいつもの事だ


「自分負ける前提でチャージしてくんなよ」

「ふふ、また明日ね!」


途中で3人になるのも慣れたものだ

会話や雰囲気が途切れることなく4人だった熱量がそのままの会話が続く

その後、2人になりそれぞれが自宅に帰る


帰って暫くした3人のスマホに嫌な連絡が入った


『さなが帰宅途中事故で亡くなりました

ひなたくん、りくくん、ゆうかちゃん、今までさなと仲良くしてくれてありがとうね

3人と一緒であの子も楽しかったと思うわ

あの子の分まで長く生きてほしいです』


さなの母親からだった

それぞれが衝撃、悲しみを抱えて夜は明けた




次の日の朝、待ち合わせの人数が減った


以前のような会話はなかった

授業を聞き流し、外ばかり見つめていた

放課後もいつもの様に待ち合わせるが、1人はいつまでも来なかった



「……帰ろっか」


りくの一言で3人の足が動いた

会話がぽつぽつと続くも次第にさなの話になる

17時のチャイムが聞こえた


「さなと別れたのこれくらいの時間だったよね」

「もう少し早くかもう少し遅くに帰ってたらあんな事になってなかったのかな」


歩くペースはかなり遅かった

さなの家族に挨拶をするため、さなの家に向かう


昨日さなと別れた横断歩道に差し掛かった

3人の間に沈黙が訪れた


話し出したのは自身なのに泣きそうな顔になっているゆうか

1番距離の近かった友人がいなくなって悲しみと後悔を残したままのひなた

何も言わないりく


横断歩道を歩いていると大きな音


危ない!と言う声や悲鳴が夕暮れの空に響く


真後ろの出来事に何があったのかと振り向くゆうかとひなた

数歩後ろを歩いていたりくがいない


視線を回すとガードレールにぶつかっている車とそれに伸びる赤い跡


投げ出されたようなカバンはりくの物だった


「り、く?」


小さく零れたゆうかの声


「嘘だろ、りく!おい!!」


状況を瞬時に判断したひなたはりくのカバンを拾い上げた

車に向かって走るひなたとその場に立ち尽くすゆうか


救急車やパトカーのサイレンが夕暮れに溶ける

ゆうかの目に映ったのは、悲しみにくれるひなたの姿

ひなたの前にいたのは制服が赤く染まったりくだった


警察官から話を聞かれ、ありのままを話す2人

事の経緯を見ていた人からは可哀想、まだ若いのに等2人を心配するような気の毒そうな声が聞こえた


また1人待ち合わせの人数が減った


「ねぇ、私たちこのままどうなるんだろう…」


不安そうなゆうかの瞳には涙が浮かんでいた


「俺がゆうかを守るから、絶対」


ひなたは制服の袖でゆうかの目元を少し雑に拭った


「ひなた居なくなったら悲しいよ、私のことを守ってくれるの嬉しいけど自分のことも大事にしてね」


ひなたの慣れてない優しさを嬉しく感じるも、それが不安になるゆうか


「ま、なんかあっても俺多分死なねーから!」


ずっと変わらない笑顔があの日以来久々に見れた瞬間だった


「あ、靴紐解けた…すぐ追いつくから先歩いてて」


ひなたは履いているスニーカーを見てゆうかに言った

ゆうかは軽く返事をして足を進めた


あの横断歩道までもう少し


あの日からゆうかはこの横断歩道を1人で進むのが怖くなっていた

渡る前に来てほしいと願うと、横から寝坊したのか焦っている小さな小学生が走ってきた

信号は青が点滅しているから渡るか迷っているのがわかった

走って渡ろうとする小学生

信号が変わるのが早いから止めようとするも、赤に変わる


小学生は一瞬戻るか迷ってしまったようだ

遅刻すると思ったのか走り抜けようとする

車の走る音とクラクションが聞こえる


ゆうかが危ないと感じて手を伸ばしたその時

誰かがゆうかの隣を駆け抜けた


ドンッという衝撃音



小学生の泣き声



喧騒



2種類のサイレンの音



ゆうかの伸ばした手は力なく下ろされた


一部始終をはっきりと見ていたのはゆうかしかいなかった


警察官に話をしている間、何度も涙が出た


その度に警察官は辛かったね、思い出させてごめんねと何度も言ってくれた


話が終わるとこの後はどうするかと聞かれた


学校に行くと答えるゆうかに警察官は驚きつつも、そうか、頑張ってねと言ってくれた


何故学校に行くと言ってしまったのか分からないが言ってしまったからにはと、学校へ足を進めた



話をしていたり事故の処理で当然遅刻していたが、教師に咎められることはなかった


教室に入るとクラスメイトから視線が集まる

遅刻した人間が教室に入ると注目を浴びてしまうのはよくあることだが、それ以外の視線が俯いていたゆうかを更に俯かせた


「ゆうかちゃんの周りの子、みんな事故で亡くなっちゃったんだって」

「え、じゃあ一緒にいると私たちまで事故にあうかもってこと?やだなー」

「私、ひなたくんのこと好きだったのに…」

「私もりくくん好きだったから悲しい…」

「なんであの3人と一緒にいたんだろうね」

「幼馴染って聞いてたよ」


小声で話すクラスメイトの声がゆうかには耳を塞ぎたくなるくらい煩く聞こえた


午後の授業は当然のように聞けず、理由を知っているからか教師から当てられることもなかった



1人になった帰り道、誰の声も聞こえない

コツコツとローファーの音だけが空に響く


あの横断歩道に差し掛かった


俯いて信号を待っていると17時のチャイムがいつもより何倍も大きく響いた


あぁ、またこの音だと思っていると


「ゆうか、信号青なったよ!」


とさなの声

パッと顔を上げると


「なにその顔、今日ずっと顔暗い」


とゆうかの顔を覗きこむりく


「なんかあった?」


と聞くひなた


喉の奥がきゅうっとなって涙が溢れるのを必死に我慢して震える声で


「なん、で……」


と驚くゆうか


一筋の涙が頬を流れ、夢じゃないんだとゆうかは思った

先に歩くひなたとさなの後ろで


「行くよ」


というりくの言葉に手を引かれるゆうか


「今行く!」


歩き出したゆうかを大きなトラックが襲った

横断歩道の近くに立っている電柱には3つの花束

電柱脇に咲いていた孔雀草がはらりと花弁を落とした






孔雀草(マリーゴールド)の花言葉は絶望、孤独

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