第6話

「ミーさん、どんな顔だって可愛い、すっぴんでも化粧してても可愛いよ、あー…いかせてよ」

「意地悪言うタカくん、いや、」

「受け入れといてそれは無いよ、ん、ミーさんで俺頑張ってんだよ、ほら、可愛いに決まってんだろうが、俺の嫁だぞ、」

「ふにゃあ、ア、」

「なぁ、」

「あ、あ」


 残念だが発射寸前俺は体を離し、改めて妻のヘソ目掛けて放った。

 「いや」が様式美か本音かなんて浮いた頭には分からない。でも本気で嫌がってるなら強行出来ない。

 まぁ、申し訳なさそうに眉を下げる妻の顔を見れば本音じゃなかったんだろうことは分かるが。


「…ミーさん見て、いっぱい出た」

「…うん…」

「中でも良かった?」

「うん…でも生理前だから可能性は低いかも」

「どっちでも良いんだよ」


 食卓からボックスティッシュを持って来てちょいちょいと吸わせて、しっとりしたお腹をパジャマで隠してから俺の方を拭く。

 余談だが、俺は妻にも言った通り妊娠はしてもしなくてもどちらでも良い。まだ存在してないものを熱烈に欲するほど、俺は父性が潤沢ではないのだ。

 しかし授かりものとはよく言ったもので、くれるなら貰うし大切にするし、だから娘は可愛いし今さら天に返したりなんて絶対に御免である。

 ただ妻の胎内に出来上がって初めて、俺は父たる自覚を持てるのだ。


「(背中、押してあげる方だったかな)」

俺は、妻がしたいと言うなら美容整形に反対はしない。

 俺の知らない妻の顔になるのは悲しいが数日で慣れるだろうし、自信を持った妻も美しいだろうし。

「(まつ毛の生え際、キレイなんだよなー)」

 大して変わらないなんて言いつつも細かいテクニックを調べては取り入れて、すっぴんと比べれば昼間の顔はだいぶん盛られている。

 鏡に向かって顎を突き出し薄目でアイラインを引く姿は実に滑稽だが、仕上がりを見て「ふふん」と笑う妻はとてもキュートだ。

「(二重になれば、化粧もササっと済むのかな)」

 

 床に座り込んだ俺を妻は腫れぼったい目で見つめて、

「ぐだぐだ言ってごめん」

と謝った。

「ん?良いよ」

「…生理前で、無性にイライラして…どうでも良いことで突っかかっちゃって」

「いつものことじゃん。また割り切って生きていくんでしょ?それとも本気で整形する?」

「…しない」

「だろうね」


 本気でどうにもやり切れなくなったら踏み出せば良いんじゃないの、その時「もっと早く決断してれば良かった」と思うだろうけど後悔は先に立たない。

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