第5話

「ぷは…酔った勢いで、しようか」

「タカくん、見られたくないから電気消して」

「…やだよ、可愛いミーさん見せてよ」

「可愛くないもん…」

 ソファーでの押し問答はパジャマのボタンを外しながら行われて、とはいえ風邪をひかれても困るので袖は抜かなかった。


「俺に『可愛い』って言わせるために自虐するのやめなよ、本当に可愛くなくなるよ」

「だって」

「そんなら整形でも何でもしなよ、金は出してやるから」

「何でそんなこと言うのぉ」

「ミーさんを可愛いと思ってる俺の気持ちを無視すんなって言ってんだよ」


 そりゃ妻の顔は妻のものだから好きにすれば良い。ならば俺に評価を求めるなよ。

 恋愛して結婚した妻だから可愛いと思うんだ。目の上の筋があろうが無かろうが変わる気持ちじゃない。


「だって」

「にこにこ笑ってるミーさんが好きだよ。顔のパーツひとつ変えたって中身が変わらないなら何だって良いよ」

「だって」

「一重だ二重だって悩んでるのも可愛いよ。気になるんなら変えちまえ、止めて欲しくて言ってんのか背中押して欲しいのかどっちだよ」

「私はぁ…」


 多分、妻は整形までする気は無いと思う。今のありのままの姿を認めて欲しくて駄々をこねているだけだと踏んでいる。

 ほらその哀しそうな顔も可愛い、ぎゅうとつむってしまえば目の細工なんて関係無い。


「ミーさん、目ぇ開けて、キスしよ」

「……」

「あー…良い女だな…うちのミーさんは」

「ぞんな、あ、」

 涙の粒が切れ長の目尻から耳に流れて、じぃっと見つめれば顔ごと逃げる。

 がっしり捕まえて全身でぶつかって、俺の気持ちが少しでも伝わってくれればなぁなんて思いで腰を振る。


「今日、出して良い?」

「え、やだッ」

「汚いものみたいに言うなよ…なぁ、出して良い?」

「やだって、やだッ」

「逆にってやつかな、ミーさんが可愛いからもう出そうだなぁ」

「やッ…」


 妊活は特に考えていない、自然に任せるというやつだ。だから避妊具も使わずの行為を許されているのだから、彼女が拒む理由は心理的なものだろう。

 こんな喧嘩同然で子を成したとして、後ろめたい気持ちになるとか愛し合ってないとかそんな理屈を並べるに違いない。

 確かにソファーに押し倒してヤダヤダ言われる今の状況は無理強いに近いかも。でも彼女だって逃げないんだから以下略…である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る