第4話
「うん…」
「あの色味なら、会社でも良いんじゃないの?」
「ちょっとなら」
「うん、遠目の写真なら写らないかもしれないけど、近くで見る人には分かってもらえるよ。今日もキラキラしてキレイだって思ったし」
「…ほんとーかなー」
満更でもない様子だが口だけの応答だと疑われている。
貶されれば悲しがるくせに、褒められ過ぎても怒るんだから面倒くさい。女心なのかうちの妻だけなのか、共感と同調とアドバイスのバランスが難しい。
会話を諦めるのはまだ早かろう。この先何十年と連れ添うのだからパターンを作りバリエーションを揃えて円滑なコミニュケーションを図っていきたい。
「信じないならそれで良いよ、俺はミーさんが好きな格好してくれてたらそれで良いと思うし」
突き放すようだがこれは正論だ。気持ちも意志も示しているし妻の考えも尊重している。
俺が指図して聞き入れるようなタマではないし、第一俺が「整形しろ」と言い従うような女なら俺はその妻に魅力は感じない。結局は吐いた愚痴をどこに着地させるかは当人の仕事なのだ。
そろっと娘から離れて壁のスイッチでダウンライトを2ヶ所消し、リビングへ出ようとドアを開けた。
「タカくん、」
縋るような妻の慌てた声が背中に刺さる。
振り返れば妻はぶすっと膨れていて、でも
「私もそっち行く」
と俺のパジャマの裾を指先でいじらしく掴んだ。
「…呑む?」
「ひと口だけ」
「良いよ」
晩酌はリキュールをソーダで割ったものを一杯だけ、俺たち夫婦はそこまで酒に強くない。
「どれにする?」
「アプリコット」
「ならオレンジジュースで割ろうか」
「良いね」
学生の頃に覚えたアルコールは、今や夫婦のコミュニケーションツールみたいなものだ。
数種類の中から選んでちびちびやって、まったり過ごす至福の時。ただ話をするだけの夜もあるし、何か期待しての夜だってある。
例えば今夜みたいに妻の瞳が揺れて落ち着かない時は、隣に掛けて肩に腕を回して抱き寄せてやる。
「ミーさんひと口どうぞ」
「うん……美味しい」
「寒くない?」
「平気だよ……あ、」
回り始めたアルコールが瞳を潤ませて、口移しでもうひと口やれば妻は途端無防備になる。
綿のパジャマの裾からするする手を入れて地肌に触れて、口しか拘束してないのに逃げない妻を内心で笑う。
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