第3話
美容整形への偏見は減ってきているし、気にしながら生きるより前向きに自信を持てる選択をするのは良いことだろう。
俺ではなく君のことなんだから、と足せば突き放しているように感じるだろうか。
「ミーさんのことだからね、自分で決めなよ。まぁ、どんな目だって俺はミーさんの顔好きだし…でも今の顔に慣れてるから変わって欲しくはないよ」
「…そう」
「俺は今日の化粧も可愛いと思ったけどね。新色でしょ?この前買ってた」
「知ってたの?」
先日届いたメール便を、ほくほくしながら抱えて寝室に運んでいたのを見てるんだ。『秋の新色』と書かれたポップシール付きの外装フィルムが捨ててあるのもゴミ捨て当番の時に見ている。立てて収納しているペンタイプの化粧品の中に新入りが入ったことも知っている…ヴィヴィッドな紫のペンだから目に付いたのだ。
あれらがつまりは妻が期待を込めて瞼に載せた化粧品なのだろう、機能の差は分からないが色味が変わったことくらい俺でも分かる。爽やかな青系からシックな茶系に変わった、それに気付かなきゃ余程のボンクラだ。
「秋らしい落ち着いた色かな、ミーさんの雰囲気に合ってたよ」
「…そう?」
「うん。可愛かったよ」
「…なら…良かった…」
妻は卓上のアイシャドウパレットをちょんと触り、鏡の中で笑う。
付き合いたてのカップルじゃあるまいし、そう毎日俺は可愛いを連呼したりはしない。
妻の見た目に不快感は無いし可愛いと思ってる。
世界一美人かと問われれば即答は難しいが、俺が審査委員長で良いなら保身も兼ねて彼女をグランプリに据える。
そもそもビジュアルで妻を選んだ訳でもないから、肥えようが色が変わろうがあまり関係無い。『性格は顔に出る』と言うから、顔付きに卑しさや意地悪さが滲めば嫌になるだろうが…妻はそんな人間ではない。
俺の目線から見下ろした時の瞼とまつ毛は色っぽくて好きだし、娘と遊んでいる時の慈しみに溢れる細まった目と涙袋も好きだ。泣き言を吐く時のしかめっ面の薄目も愛しいし、俺に組み敷かれて杏仁型の湖に瞳が揺れているのを眺めるのも楽しい。
言葉にすれば安っぽくなるだろう。妻は口が上手い男は軟派だと考えがちなのだ。だから俺はなるべく彼女を思いやる上辺の正論や、加担していると見せかけて中立な立場を取ったりと頭を働かせている。
とりあえず『変化に気付く』というボーナスポイントを得た俺は良い調子で、
「またして見せてね」
とリクエストを送った。
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