第2話
一重の目を形容する際に「切れ長の」とか「シャープな」とかよく言うが、妻にとってはそれすらももう地雷だそうだ。
世間一般に言う『可愛い』は大きく丸い目を指すことが多く、化粧品の広告でも二重のモデルさんが主流だ。
メイク動画で『一重でも可愛くなるメイク術』なる文言を聞いた日には妻は怒り狂い何故か文句を俺に垂れて、終いには「一重だって可愛いもん~」としくしく泣いた。
思春期からこれまで抱えてきたコンプレックスは落ち着いてぶり返してを定期的に繰り返していて、俺としては話を聞いてやり宥めてやるしかできない。
「意味無いことは無いと思うけど」
「どうせタカくんには分かんないんだ、一重の気持ち」
「そら分からんて…いや、悩む気持ちは共有できるよ」
かく言う俺の目はパッチリ二重、目頭から目尻まできっちり天然の溝が入っている。
妻が落ち込めば俺は慰める、しかし俺が何を言おうと彼女の燃えたぎる炎に油を注ぐことになってしまう。
俺はこの目で不利益を被ることは無かったが利益を受けたことも無い。男ならそんなものだろう。どちらかと言えば劇画調のスナイパーみたいな鋭い目つきの男に憧れるが、妻にそんなことを言っても慰めにはならない。
俺たちの目を交換できるならやってやりたいさ、そんな不可能な策を提案して励ますのがいつものパターンだ。
「私、生まれ変わったらパッチリ二重になるんだ」
「あーそう…」
「整形しよっかな」
「一回で満足できる?」
それで前を向いて歩けるならした方が精神衛生上は良いんじゃないの、けれど依存症になっては困る。少しずつ変えていって、元々の原型が無くなるどころか人間として不自然な顔になってしまってはいけない。本人がそれで満足していたとしても、俺は夫として止めるだろう。
しかしまぁこの「整形しよっかな」への俺のアンサーは、妻が納得するものではなかった。
彼女が欲しいのは「しなくても可愛いよ」などの現状を褒める台詞だ。それを言ったところで「私がそうしたいって言ってるの!」と不毛なループを繰り返すだけと分かっていてもだ。
でも生憎と同じやり取りを何度しても進歩が無い。そう思って今回初めて整形を肯定的に検討する方向に走ってみたのだがルートを間違えたらしい。
「普通、妻が整形するって言ったら止めない?」
鏡越しの妻はぷりぷりと頬を膨らまして不満を表していた。
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