第28話

「悪い、再起動に手間取った……」


 カジロイド姿のリスナーはそれだけ言い残すと、すぐによろけた天使に追撃を仕掛ける。


「家事スキル:セキュリティ機能【積極的防衛アクティブ・ディフェンス】」


 剣のように変形したロッドで、天使に立ち向かう。


『……』


 天使もまた先ほどの攻撃は、単なる不意打ちによる被弾であったようで、すぐに迎撃姿勢に移る。


「え……? なんでリスナーさんはカジロイドに憑依できているのでしょう……ジャミングの影響でできないはずでは?」


 シユとラミエルは、ぽかーんとしてしまう。


 と、コメントが表示される。


【二人がジャミング装置を破壊してくれたおかげ】


「「っ……!」」


 二人はよくわからずにボコボコに破壊した装置の方に視線を送る。

 ジャミングとは、三本目の塔周辺でリスナーがメカに憑依リンクすることを阻害していた妨害電波のことであった。


 そして……、


「「あー……これが……ね……」」


「狙い通りです」「狙い通りだな」


 二人はひきつるようにニヤリと笑う。


 と……、


「ぐあっ……!」


 カジロイドが吹き飛ばされ、壁に激突する。


「ちょ、お前、かっこよく登場したわりには、おされてんじゃねえかよ!」


「っ……それは、しょうがないだろ! スペック以上に急に強くなるわけないだろ!」


 リスナーはやや理不尽な物言いのラミエルに小さく怒りつつ、再び天使に向かっていく。

 壁に激突するほどの衝撃を受けても、すぐに動けるのは頑丈な人工物の身体のおかげだ。


「ラミエル! お前はしっかりシユを守れよ!」


「……わかったよ」


 ラミエルはそう言うと、痛みで立ち上がることのできないシユの前に仁王立ちする。


「わ、私……守られたくなんかないです……一人ぼっちに……一人ぼっちになるくらいなら……」


「あほ……!」


「え……?」


「一人ぼっちになりたくないのはな、私も同じだ……!」


「っ……!」


「ましてやリスナーと二人きりはもっと嫌だ……! なんか気まずいからな……!」


 そう言って、ラミエルは背中越しに、ニヤリと微笑む。


「うぉおおらぁああああ!!」


 一方、リスナーは天使に向かって、果敢に突進していく。


 天使はレーザー攻撃で牽制するが、リスナーは前進しながらも、すれすれでそれを回避し、接近戦を試みる。


 リスナーのロッドから放出される光の剣が天使の身体を狙う。


 しかし、天使の変形する翼の防衛能力は健在である。


 二者の息を呑むような激しい攻防が繰り広げられる。


 だが、二者には、小さくはない力量差があった。


 その力量差は次第に、結果に反映されていく。


「くっ……!」


 変形する翼の斬撃がリスナーの機械の身体を掠める。


 その回数が徐々に増えていく。


「り、リスナーさん……」


 シユは心配そうにリスナーを見つめる。


 と……、


「おい、シユっこ、見ろ……! あれ……」


 ラミエルがエスカレーターの昇降口付近を指差す。


「ん……? え……!?」


 シユは口をぽっかりと開けて驚く。


『……』


 その間にも、天使は更に攻撃の勢いを増す。

 戦闘への適応力が高まって来たのか、ついには翼による近接攻撃と同時に、レーザーでの牽制を織り交ぜるようになっていた。


 そして、ついにそのレーザーがリスナーの左腕を捉える。


「くっ……!」


 レーザーが通過したリスナーの左腕部分はまるで元から何もなかったかのように跡形もなく消滅する。


 そして、


『……』


 レーザーにより体勢を崩したリスナーに天使が追い打ちをかける。


 翼の刃がリスナーの首元に襲い掛かる。


「リスナーさん……!」


 シユは思わず叫ぶ。


『……』


 だが、リスナーの首が宙を舞うことはなかった。


「…………なんとか間に合ったか……」


 そうリスナーが呟くように、リスナーのカジロイドによる斧が天使の刃を防いでいる。


 天使に感情があるとすれば、不思議に思ったはずだ。

 体勢を崩していたはずのカジロイドに防衛行動を取ることなど不可能であったはずだからだ。


 だが、それが可能であったのにはカラクリがあった。

 天使の刃を防いだカジロイドには痛々しい傷もなく、ましてや左腕部分が吹き飛んでもいない。

 新品同様の綺麗さであった。


「り、リスナーさんが二人!? なんで!?」


 そう、天使の攻撃を止めたのは二体目のカジロイドであったのだ。


「シユ……言っただろ? 俺は元々、この辺で活動してたんだよ」


「あ……!」


 シユは清澄白河周辺についてリスナーと会話したときのことを思い出す。


〝近くにホームセンターがあって、そこはギリギリ、俺も憑依できるから利用してた。かなり環境は整えてある〟

〝そこだと発信電波が強いせいか複数機同時憑依なんて芸当もできる〟


「「うぉおらぁあああ!!」」


 ボロボロと新品同様の二体のカジロイドが一斉に天使に攻撃を仕掛ける。


『……』


 すると、戦況は明らかに先ほどまでと変わる。


 天使は防戦気味になり、次第にその身体を光の刃が掠めていく。


 さらに……、


「発信電波が強いと複数機同時憑依もできるわけだが……ジャミングが無くなった三本目の塔ここは発信電波がやたらと強くてな……二体と言わずこんなことも可能なんだよ」


『……!?』


 気が付けば天使は大量の武装されたドローンに囲まれていた。


 そして……、


「くたばりやがれ…………一斉照射ファイア!」


『……!!』


 大量の弾丸が四方八方から天使に襲い掛かった。



『ギィイアア゛アアア゛ア!!』



 天使は悲痛な叫び声をあげる。



 やがて弾丸の嵐が収まる。

 そこには全身穴だらけとなり、行動不能となった天使が倒れていた。

 どうやら翼を駆使して、急所の輪っかだけは防衛したようだ。


 そこへロッドを大鎌に変形させたリスナーが止めを刺すべく接近する。


 そして、冷酷な目で天使を見下ろし、鎌を振りかぶる。


 と……、


「リスナーさん……! ちょっと……!」


 シユが叫び、リスナーを制止する。


「ん……?」


「で、できれば……拘束で……拘束でお願いできませんか!?」


「え……? なんで……?」


「そ、その……判断を保留したいから……です」


「…………わかった」


 リスナーはシユの真意までわかってはいなかったが、ひとまず了承する。



「家事スキル:セキュリティ機能(シークレット)【拘束リストレイント】」



 ボロボロのカジロイドがまとわりつくように天使を拘束する。


「カジロイド一体使ってしまうのが難点だが、これなら、いかにこの天使といえど脱出できないだろう」


「あ、ありがとうございます……!」


 こうして、シユたちはなんとか天使を拘束することに成功したのであった。


「それじゃあ、ラミちゃんさん、リスナーさん、改めて地下へ向かいますよ!」


 シユは歩き出す。

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