第27話
「あの…………久世さんですか……?」
シユが目の前の天使に問いかける。
ひょっとしたらラミエルのように自我が残っているかもしれないと思っての確認であった。
だが、反応はない。
それに、他の天使と同様に、白目をむいている。
そして、天使はゆっくりと翼を広げる。
翼の周囲に輝く球体のようなものが複数、発生する。
「っ……! シユっこ! くるぞ!!」
ラミエルが叫ぶ。
それとほぼ同時に、輝く球体から光の線が発射される。
それはまるでレーザービームのようであった。
シユとラミエルは、ぎりぎり反応が間に合い、辛うじてその射線上から逃れる。
「うわぁああああ!! 絶対あれ、当たったらやばいやつですよ! そんなのありですかぁああ!!」
「やばいやばい! 早く昇れ、シユっこ!」
シユとラミエルは一目散に駆け出し、今、下ってきたエスカレーターを逆走するように昇る。
必死の思いでエスカレーターを昇りきった二人はちらりと今、昇ってきたエスカレーターの下部を見る。
「「っ……!」」
「やば……! 追ってきてる!」
天使は二人を追跡する構えのようで、再び翼の周囲の球体が光輝く。
「うぉおお!!」
二人は一目散にさらに上階(地
その間、先ほど必死で昇ってきたエスカレーターからレーザーが飛び出てくるのを見て、ぎょっとする。
そのまま二人はさらに上階(地上2階)へ向かってしまう。
「や、やば……ラミちゃんさん、今、通り過ぎたのエントランスホールですよね? もしかして出口目指した方がよかったですかね?」
「気づかない方がよかったことに気付いちまったな、シユっこ」
エスカレーターを昇りながら、二人はちょっと後悔するが、もう引き返すことはできない。
「このままじゃ、どんどん地下から離されて、しまいには追い詰められちゃいますよーー!」
「そうだな……確かにこのままじゃジリ貧だ。ここらで一つ、抵抗してみるか……」
エスカレーターを登りきり、地上2階に辿り着いたラミエルはフロアの中央部に移動する。
そして、今、登ってきたエスカレーターの方に振り返る。
「ラミちゃんさん、迎え撃つつもりですか?」
「やるしかねえだろ……!」
ラミエルがそう答えるのとほぼ同時にエスカレーターから天使の姿が見えてくる。
「うぉりゃあああああ!」
ラミエルがバールのようなもので天使に殴りかかる。
「っ……!」
が、しかし、天使は翼でそれを受け止める。
「くっ……! 翼を使うのがお上手なようで! うぉりゃあ!」
ラミエルは再び天使にバールのようなもので攻撃を仕掛ける。
だが、液体のように形状が変形する翼によりことごとく攻撃を阻止されてしまう。
「私も……!」
その間にシユも天使に接近し、刀を振る。
結果は変わらず、やはり翼の守りにより防がれ、身体にダメージを与えるには至らない。
そうこうしているうちに、再び天使の周囲に輝く球体が発生し始める。
「やばい! シユっこ、離れるぞ……!」
「はい……!」
ラミエルがシユを抱え、跳躍する。
地面に足跡が残るほどの力で、一気に上階へのエスカレーター付近まで逃れる。
「ジリ貧だが、今は仕方ない。上に逃げるぞ!」
「はい……!」
二人は再びエスカレーターを登り、地上3階へと逃れる。
「「っ……!」」
3階に辿り着いた二人は少し驚いてしまう。
3階はこれまでのフロアと違い、大型の装置のようなものが設置してあったのだ。
装置は不可思議な音を発しながら、微振動している。要するに動作中のようだ。
「な、なんでしょうか、これ……」
「わ、わからん……っ……!」
シユの質問に答えつつ、ラミエルはちらっとエスカレーターの下を見る。
すると、天使が迫って来ていた。
「くそ……こっちはパニック状態だってのに……! こうなったら…………悪いな! リスナー……!」
【え……?】「え……?」
「予告通り武器にさせてもらうぜ!」
ラミエルは背負っていたカジロイドをエスカレーターを滑り落ちるように、天使の方に投げつける。
『……』
天使はカジロイドを視認する。
すると、意外にも関心を示すように様子を確認しており、足を止めている。
「ん……? なんか知らんが足を止めてる。シユっこ、チャンスだ。どうする!?」
「この装置、破壊しましょう!」
「はえ……!?」
シユの超即断にラミエルは流石にちょっと驚く。
「もう何の装置かわかりませんが、どうせ
「はは……、確かにな……ちょうど飛び道具になるものも欲しかったところだ……」
ラミエルはそんなことを言いながら
「だったら、一思いにぶっ壊してやるよ!! おらぁああ!!」
ラミエルはバールのようなもので、装置をボコボコに叩き付ける。
「…………やったか?」
装置はバキバキに破壊され、微振動は止んでいた。
「…………さぁ……わかりません」
装置は破壊できたようであったが、特段の変化は見られなかった。
そうこうしているうちに……、
「っ……! やばっ……!」
ラミエルがエスカレーターの降り口付近に視線を向ける。
そこには、追跡してきた天使の姿があった。
「くそっ……! もう来やがったのか……!」
そうぼやきながら、ラミエルは天使に向かって、破壊した装置の破片を次々に投げつける。
『……』
だが、天使は変形する翼で、その破片を次々に撃ち落とし、そしてゆっくりと近づいてくる。
そして、あるタイミングで突然、
「っ……! ぐあっ……!」
その塊がラミエルにクリーンヒットしてしまい、ラミエルは膝をつく。
「ラミちゃんさん……! くっ……! このぉおおおお!」
それを見て、シユが果敢にも天使に突進していく。
「し、シユっこ……やめ……」
ラミエルの制止も届かない。
「せぁあああああ!!」
シユは天使に斬りかかる。
天使は翼を刃物状に変形させ、それを受け止める。
シユは怯まずに何度も攻撃を仕掛ける。
だが……、
「っ……! 速っ……きゃぁあああ!」
攻撃の隙を縫う様に強い反撃がシユを襲う。
シユはなんとかそれを刀でガードするが、後方へ吹き飛ばされてしまう。
「くっ……」
肉体は普通の女の子であるシユが数メートルも吹き飛ばされれば、そのダメージは決して小さくはない。
シユは身体を起こすのがやっとである。
そして前方を見る。
「っ……!」
そこには翼の周囲に、輝く球体が発生した天使である。
それを視認したシユは明確に死の恐怖を覚える。
それはホームセンター奪還作戦以来の出来事であった。
あの時も死を覚悟した。
あの時は、〝やっと終われるんだ……〟と安堵すら覚えた。
だけど……、
今は違う。
〝怖い……〟
「ちくしょぉがぁああああ!!」
「っ……! ラミちゃんさん……!」
ラミエルがシユの前に立ち塞がるように前に出る。
「や、やめ……」
正直に言えば、本当にやめてほしかった。
本心から言えた。命を懸けて守るなんて、してほしくない。
その間にも、天使は事務的とさえ思えるほどに無表情に、無感情に、淡々と、その光を放とうとしていた。
だが、その時であった。
天使に爆発が発生し、その身体がよろける。
暴発した光はあらぬ方向へ放たれていく。
「「え……?」」
シユもラミエルも唖然とする。
「悪い、再起動に手間取った……」
「っ……! …………リスナーさん……」
そこには執事姿の少年……カジロイドが立っていた。
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