第24話

「やった! ハムくんだ……!」


「よかった。そのままになってたんだ!」


 ハムくんは久世のデスクに残ったままであった。

 窓際であり光を吸収できたことからかバッテリーも残っているようであった。

 シユとラミエルは思わず向き合って両手タッチをする。


「ハムくん……! いろいろと聞きたいことがあります!」


 シユは目を輝かせる。


 が、しかし……、


『申し訳ありません、顔認証の結果、あなたは対話対象者に登録されていないようです』


 視覚カメラがピントを合わせるように音を鳴らしながら、ハムくんがそう言う。


「がーん」


 シユとラミエルはショック過ぎて、思いっ切り口が開いてしまう。

 シユにいたっては本当にがーんという擬音を口にする。


「ど、ど、ど、どういうことでしょう?」


【いや、よく考えたら当たり前か……。セキュリティ機能……企業の貴重な資産であるAIロボットが誰とも分からない奴と会話できるはずがないか……】


「うぇええん、どうしようぉお! せっかくここまで命懸けできたのに……リスナーさぁあん、なんとかなりませんかー!」


 シユは涙する。


【少し粘ってみるか……とりあえず顔を怪我しているとかなんとか言ってみるか】


「わ、わかった……! あのー、ハムくん、実は最近、少し痩せちゃいまして……」


『そうですか……では、あなたは誰ですか?』


「っ……! 田中……田中綾乃です」


『田中綾乃さんですか……やはり……顔認証に失敗しました』


「ふぇええん」


『ただ、適合率が30%を上回っています』


「え……?」


『そのため緊急時用の秘密の質問での認証へ移行します』


「っしゃ!」


【親子だからだな! シユ、ラミエル、迂闊にばれるようなこと言うなよ】


「……」


 シユとラミエルはヤバっとでも言うように口をふさぐ。


『秘密の質問です。本機の所有者である久世の初めて飼ったペットの名前は?』


「っ……!」


 シユは焦りの表情を浮かべる。


【シユのお母さんに関する質問じゃないのか……シユのお母さんでも答えられる質問を設定してるのは久世ってことだな……これはなかなかハードだな……】


「「……」」


 シユとラミエルはドローンにアイコンタクトを送る。


【いや、流石にわからんて】


 シユは露骨に残念そうにしつつ、シユ自身で回答する。


「えーと、じゃあ…………ハム!」


『違います。それは私の名前です』


「っ……!」


『まさかとは思いますが、予想で答えていませんよね?』


「そ、そんなことは! ちょっとド忘れしちゃって……」


『そうですか。では秘密の質問2です。これを間違えると、本機は所有者の解除があるまでロックされますので慎重にお答えください』


「うわぁああああ、マジですかぁあああ!?」


『それでは秘密の質問2です。本機の所有者である久世の一番の友人の娘の名前……』


「「っ……!?」」


 シユとラミエルは思わず、顔を見合わせる。そして……、


「ジュエル!!」


 シユは叫ぶ。


『…………一番の友人の娘の名前の読みはジュエルですが……』


「二段式かーい!」


 ラミエルが思わずつっこむ。


『その漢字はなんですか?』


「…………宝物たからもの……です」


『…………認証が完了いたしました。失礼しました。田中さま、ご質問をどうぞ』


【きたぁあああああああ!!】


「「っっ……!」」


 ラミエルはガッツポーズし、シユは口を両手で押さえる。


 そして……シユはハムくんに質問をする。


「ハムくん…………現在、人間に発生している……人間がまるで天使のような姿になる現象の原因がわかりますか?」


 ハムくんは何かを計算するかのように、少し沈黙し、そして答える。


『…………もちろんです』


「「っ……!」」


『それは〝この世から腐った人間を消滅させる方法〟を行使した結果です』



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