第23話

 ラミエルはにやりと口角をあげる。

 すると、突如、手に持つバールのようなものを駆使して、入口近くにあった恰幅のいいちょびひげのおじさんの銅像を接地面から剥がし取る。


「えぇええ!? ラミちゃんさん、急に何するんですかーー!」


「こうするんだよ!」


 ラミエルは恰幅のいいちょびひげのおじさんの銅像の頭部を鷲掴みすると、そのまま天使軍団に向けてぶん投げた。


『ギィイイイイイ』


 想定もしていなかった巨大な物体の飛来に、前線にいた天使たちがなぎ倒されていく。


「うわぁあああ、ラミちゃんさん、すごぉおおお!!」


「よっしゃ! 今ので、3~4体はやっただろ! もういっちょ、おかわりいるか!?」


 ラミエルは意地悪そうに微笑むと、今度は近くにあった観葉植物の鉢植えをぶん投げる。


 だが……、


「…………もう対応してくるか」


 今度は、前線の5体の天使が重なるようにして鉢植えの進行を止める。


「だったらよ! これはどうだ!?」


 再び、ラミエルは別の観葉植物の鉢植えを手に取る。

 そして、今度は天使軍団の上空から落下するように斜め上にぶん投げる。


 しかし、やはり天使たちが落下点に集まり、鉢植えをキャッチしてしまう。


「うーん、なかなかの対応力だ……」


 ラミエルは唇を噛み締める。

 と……、


【……あれ?】


 リスナーがコメントを書き込む。


「どうかしましたか? リスナーさん」


【いや、上空から観ていたら今の天使の動きは少し非効率的だったような……】


「え……?」


【ラミエル、今の攻撃を繰り返してくれないか?】


「あん……? まぁ、わかった」


 ラミエルは若干、釈然としない様子ながらも再び鉢植えを手に持とうとする。


 その時であった。


『ギィイイアアア!』


「「っ……!」」


 今度は前線の数体の天使たちが攻撃を仕掛けてくる。


「ちっ……!」


 ラミエルが迎撃しようとする。だが、


「ラミちゃんさん、ここは私に任せてください!」


 シユがラミエルの前に立ち塞がる。


「だが……」


「これくらい大丈夫です! だからリスナーさんの言う通りに!」


「っ……! わかったよ……!」


 そうして、ラミエルは再び鉢植えを手に持ち、そして投げる。


 再び、天使たちが落下点に集まり、鉢植えをキャッチする。


 それでもラミエルは再び鉢植えを摑み、投げる。


 結果は変化することはない。


「おい、リスナー、本当に意味あるのか? これ! 投げられるものも少なくなってきたぞ!」


【もうちょっとだ! 候補が4~5まで絞れてきた】


「ん……? 何言ってんだ? まぁ、いい! なんかよくわからんが、鉢植え残弾が無くなるまで続けてやんよ!」


 ラミエルは言葉通り、全ての鉢植えを投げつけて、いよいよもう投げられるものがなくなる。


「おい、リスナー! もう弾がなくなったぞ……! 打つ手なしか!?」


【ちょうどこっちも分析が終わった。隊列の後ろから2列目、左から2番目。恰幅かっぷくのいいちょびひげ天使だ】


「え……?」


 ラミエルが疑問の声をあげる。

 意味が解らなかったからだ。


 だが、その時、シユはもう走り出していた。



 一閃――。



 恰幅かっぷくのいいちょびひげ天使の首が飛ぶ。



 ……と、ほぼ同時に他の天使たちの動きが一瞬停止する。


【シユ! すぐにそこを離れるんだ!】


「えっ!? あ、はいぃいいいいいい!」


 シユは再び、入口方向に全力で駆ける。


 停止していた天使たちがシユの存在に気付き、そして……、


「ラミちゃんさん、逃げますよぉおーーー!」


「えっ!? えぇえええええ!?」


 天使たちが一斉にシユの方を目掛けて走り出す。


 シユとラミエルは慌てて、入口に向かってダッシュする。


「どうなってんだよぉおお!! リスナー!!」


「あはははは! 逃げろーーー!」


 ……


【というわけで、あの恰幅かっぷくのいいちょびひげ天使が恐らく特殊な上位天使で、他の天使たちを操っていたというわけだ。上空からの攻撃があらゆる箇所に落下してきたわけだけど、あの恰幅かっぷくのいいちょびひげ天使を守るように天使たちが動き、そして奴だけはさりげなく防衛には参加していなかった】


 一度、サイバードリーム社から少し離れた場所でリスナーが先程の件の解説をする。

 支配を解き放たれた天使たちが追跡してきたが、シユをひょいと抱えたラミエルの快速でまくことに成功していた。


「先に言え、先に!」


 そのラミエルは若干、いかっている。


【すまん、でも残弾も限られていたし、あの恰幅かっぷくのいいちょびひげ天使、結構さりげなさを出すのが上手くて特定するのに集中せざるをえなかった】


「あぁあぁ、わかったよ! ん……? しかしあの恰幅かっぷくのいいちょびひげ天使……なんか最初に投げた銅像に似ているような……気のせいか?」


「……ははは、そんなまさか……きっと気のせいですよ」


 シユは苦笑いする。


「でもまぁ、これでエントランスホールの天使たちは皆さん、散り散りになったはずです」


「それにしてもシユ、よくあのリスナーの指示だけで、一瞬で動けたな」


「え……? あ、はい……あんまり深く考えないでやってみようの精神。体が先に動くタイプなのです」


「はは……なるほどな……」


「それに……リスナーさんの言ったことなので……必ず何か意味があると信じていました」


【……】


「……だってよ? リスナー」


 ラミエルがにやにやしながらドローンを見る。


【……ありがとよ、信じてくれて】


「いえ、こちらこそ!」


 シユは屈託のない笑顔で微笑む。


「さてさて……シユっこ、改めて、行くか! 研究開発室!」


「はい……!」


 こうしてシユとラミエルは再びエントランスホールへ向かう。

 思惑通り、エントランスホールの天使はいなくなっており、奥にある階段に辿り着くことができた。


 そして、研究開発部は4階フロアへと向かう。


 幸いにも、階段では厄介な天使はおらず、順調に進行できた。


 なお、途中にあるいくつかのセキュリティ扉はラミエルが破壊した。


「……ここが研究開発部ですね」


「あぁ……」


 シユとラミエルは緊張した面持ちで、研究開発部フロアへ足を踏み入れる。


 研究開発部のフロアはもぬけの殻であり、天使は一体もいなかった。


 そして、二人は久世のデスクを探す。

 研究開発部のフロアマップはお母さんの報告書にも記載されていた。

 その中で、久世のデスクは通常であれば誰も後ろを通らない窓側の角席である。


 見たところ他のデスクには確かに〝対話型インスピレーションロボット〟らしきロボットが設置されていた。


 果たして久世のデスクにも残っているのか。


 二人はドキドキしながら、窓側の角席へと向かう。


 ……


 そして……あった。

 窓側の角席に確かに対話型インスピレーションロボットが残っている。


 シユは恐る恐る話し掛ける。



「…………ハムくん……ですか?」



 すると、返事が返ってくる。


『こんにちは、私は対話型インスピレーションロボットのハムです』


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