第21話
「り、リスナーさん、ここが例のポイント……
「お、おう……」
「うわぁあああ! 楽しみ過ぎるぅう! うわ、やば……早くもよだれ出てきました……」
日が出始めた早朝の時刻。
シユたちはサイバードリーム社……ではなく、湾沿いに来ていた。
そこは豊洲の
海辺の公園があった場所である。
対岸には有名な橋が見える。
そんな場所に来る目的はただ一つ。
「新鮮な魚が食べたいです…………ただただ新鮮な魚が食べたいです」
それであった。
三人はサイバードリーム社へ行くという方針は決まったのだが、ものすごく急いでいるというわけでもなかった。
夏という季節を考えると、体力を消耗する暑い日はなるべく避けたく、曇りの日を狙う必要があった。
そんなこともあり、未だサイバードリーム社へのアタックは決行されていなかった。
そんなある日、ホームセンターにある釣り具コーナーを見ていたシユはふと「あぁ、新鮮な魚を食べられたらどんなに幸せだろう……」と呟いた。
それに対し「え……? じゃあ釣ればいいじゃん」と言ってしまったのがリスナーである。
「お前らなぁ、さぞかしワクワクするでしょうなぁ! 命懸けの釣りは!」
傍らにいたラミエルが憎まれ口を叩く。
ラミエルの言う通りである。
釣りとは、すなわち長時間その場に留まるレジャーである。
つまり、魚との勝負と同時に背中を天使から守らなければならないのである。
「そこはまぁ、この辺は元々、人口密度低いし、三人ならなんとかなるっしょ」
今日に限ってポジティブなのがリスナーである。
「あ? なんだ? リスナー、お前、ひょっとしてシユっこのセーラー服でテンション上がってるな?」
「はぁあ!?」
ラミエルのいびりにリスナーは声を荒げる。
そうである。
シユは、なぜか今日は気分転換ということでセーラー服を着ているのである。
「ラミちゃんさんもどうですか? セーラー服」
「はぁあ!? アホか!」
今度はラミエルが動揺している。
「まぁいい、見張りは私がやるから、ちゃっちゃと釣っちゃってくれ!」
そう言って、ラミエルは海に背を向ける。
「それじゃあ、シユ、やっていこうか」
「はい……!」
「一応、再確認だけど、シユ、大物が釣りたいんだよな?」
「はい! 大物が……! そして願わくば刺身が食べたいです!」
「わかった。そう簡単ではないと思うけど、初心者におすすめの柔らかい素材でできたワームというルアーを使ってやっていこうか」
「承知です!」
シユはリスナーに指示されるがままにルアーを装着し、たいして指導を受けることなく、とりあえず海にルアーを投げる。
「シユ、リールを巻くと、ワームが動いて魚が誘える仕組みだ」
「なるほどです。こんな感じですかね?」
「うむ、悪くない……だが、まぁ、そう簡単に釣れるほど……」
「うわっ! なんか引っ掛かったぁああ!」
「なにぃいい!?」
シユの竿が激しくしなる。
「おっ、シユっこ、もう来たのか!?」
「な、なんか来ちゃいましたぁあ!」
……
「え……えーと……このお魚さんは……」
シユは釣り上げた魚の名称についてリスナーに確認する。
「シーバス……」
「へ……?」
「スズキってやつだよ」
「あぁー、知ってますよ! 〝またお前ですか―〟ってやつですね……よく釣れるお魚さんですよね!」
「あほ! 特定のゲームではなぜかそんな扱いを受けていたが、実際には初心者には、そう簡単には釣れない魚だよ!」
「ふぇ……」
「ち、ちなみにお刺身は?」
「できる。若干の運要素があるが、基本的には美味いやつだ」
「え……? 運?」
「あぁ、基本的には美味い白身魚なのだが、生息する環境によって、臭みが出たりしてしまうんだ。正直、こういった湾奥だと工業臭のようなものがするケースが少なくない」
「なるほどです。刺身ガチャというわけですね……」
シユはごくりと息を呑む。
◇
「う、うみゃああああああ!!」
その日、ホームセンターにシユの奇声が響き渡る。
どうやら運がよかったようだ。
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